メモリアルキルト、作り手の気持ちともらい手の気持ち

8月も終わり今年も9月11日の同時多発テロのメモリアルが来ました。すでに16年の歳月が流れていますが、そんなに長く時間が経過したものかとつくづく考えてしまいます。
「メモリアルキルトは大好きな人のことを思って作るキルト」だと私は思っています。悲しい事も、嬉しい事も、寂しい事も、たくさんの気持ちを込めて、一針一針作るメモリアルキルトは、差し上げる相手の事を思いながら、同時に作っている私達の心も癒やされたり、満たされたりします。キルターとして、メモリアルキルトを作ることは非常に大切だと考えます。

私は一人でメモリアルキルトを作った事もありますが、多くは仲間や生徒さんたちとのフレンドシップ・メモリアルキルトを作っています。私がプロとしてデザインを手掛け始めた頃のキルトが千羽鶴キルトでした。

キルトパラダイス第66回「2009年4月のホノルルフェスティバル」、そして 第71回「8年目で寄贈、9.11追悼、千羽鶴フレンドシップキルト 」の2回に紹介させていただいています。このキルトはなかなか気持ちを切り替えて作るのに大変でしたが、のべ何百人の方の手で完成させていただき今はニューヨークの9.11メモリアルに寄贈しています。
当時郵送していただいた、一枚一枚のアップリケを手にすると、色々な思いが伝わりました。このすべての気持ちを犠牲者やそのご家族の方達へキルトを通して伝えることができればと思い、何年もかかって完成させました。ハワイのアンティ達の多大な協力と日本とアメリカの方々のサポートで4m角の大きなキルトは出来上がりました。

千羽鶴フレンドシップキルト

千羽鶴フレンドシップキルト

2011年3月11日の東日本大地震の時の被害者の方へキルターとして何かできることは?を考えた時、震災直前まで、私のハワイアンキルトの展示をしてくださったスパ・リゾート・ハワイアンズの方達の事を思いました。リゾートも被害に合い、毎晩ショーをしていたフラガールズ達の職場がなくなり、あちらこちらで巡業されていることを耳にしました。少しでも皆さんが元気になっていただけるよう、多くの方達にお声をかけさせていただき、フラガールのフレンドシップキルトは完成しました。皆さんの思い思いのフラガールのキルトは本当にユニークで、びっくりさせられる物もたくさんありました。1枚1枚にバイアスを付け、大きな100人のフラガールズには、バイアスに濃いピンクの生地を使用し寄付しました。今もスパ・リゾート・ハワイアンズのモラリスタワーのお店の中に飾られているということです。犠牲者やそのご家族を思いながら作りましたが、逆に私達もそのキルトからパワーをいただき、未来に向かうことができたような気がします。

フラガールのフレンドシップキルト

フラガールのフレンドシップキルト

メモリアルキルトは悲しい出来事の為だけではなく、結婚の時や特別な誕生日の時などにももちろん作られます。アメリカでは色々な生地を組み合わせたり、写真を生地に印刷したり、小さい時の子供の思い出の服や優勝したときの思い出のTシャツ、ジーンズ、ガウン、帽子、結婚式のドレス、ネクタイなど数え切れないほどの、思い出の品々を1枚のキルトにする場合も多いです。それにはテーマなども決められたりするので、もらい手にとっては懐かしい、でも実用的に使えるスクラップブックみたいなものでしょうか。懐かしい瞬間と素晴らしい思い出を一度に手にできる魔法のキルトと言ってもいいでしょうね。

私の生徒さんの中で還暦を迎えられた方にも還暦キルトを作ったりしています。
還暦を迎える方の好きなデザインや好きな物などを予めリサーチし(笑)、こそこそと作り、サプライズします。このサプライズで喜んでいただける顔が見たくて作っているのかもしれません。その人のことを思い、喜んでくれるかな? とか、泣いちゃったりするのかな? とか、思いを巡らせながら作るのは本当に楽しいです。バイアスは還暦のお祝いなので、赤に統一しました。一人で作るのではなく、仲間と作るフレンドシップキルトは更にウキウキしますね。皆さんと気持ちを分かち合えるとか共有できるとかが素敵だと思います。

還暦キルト:ももちゃんのフレンドシップキルト

還暦キルト:ももちゃんのフレンドシップキルト

還暦キルト:のりのりのモンステラ・フレンドシップキルト

還暦キルト:のりのりのモンステラ・フレンドシップキルト

私の姉的存在であった広代さんは腎臓病を患っていました。当時は人工透析もしていましたし、腎臓の移植も受けていました。その闘病中に彼女の大好きな猫をモチーフに仲間でフレンドシップキルトを作成しました。アメリカでは腎臓はオレンジ色です。そこでオレンジのバイヤスを使い、キルトの作成をしました。このキルトを病室に飾ってくれて、元気になったと言ってもらえました。作り手の気持ちがたくさん入り、それぞれ工夫してキルトの猫に鈴を付けたり、ステンシルしたり、刺繍したり。。それはそれは心のこもったキルトでした。そして長生きを願って作ったキルトでしたが、広代さんはその後、肝臓病で亡くなりました。今でもご主人が大切に大きなフレームに入れ、お家に飾っていてくれています。見るたびに当時の私達の気持ち、病気と闘っていた広代さんの気持ちを思い出します。

広代さんの猫のフレンドシップキルト

広代さんの猫のフレンドシップキルト

プルメリアのフレンドシップキルトは完成したばかりですが、すでに贈らせていただいています。昨年7月に私の生徒さんが若くしてお亡くなりになりました。キルトをされて10年くらいでしたか、2015年11月に大阪のワークショップで久しぶりにお会いしたばかりでしたのでショックでした。ご本人は闘病をされていたことを後にご主人から教えていただきましたが、お子さんがまだ小さいので本当に何と言っていいか言葉を失いました。ご本人がお好きだったプルメリアをモチーフにメモリアルキルトを作らせていただきました。一周忌も過ぎてしまっていましたが、ご主人に受け入れていただき飾っていただけたこと、本当に感謝します。このキルトの作成は心が締め付けられるくらいでしたが、これを見た裕美さんが天国で喜んでいただければと思っています。

プルメリアのメモリアルフレンドシップキルト

プルメリアのメモリアルフレンドシップキルト

メモリアルキルトは作り手ともらい手の気持ちと色々な気持ちがたくさんこもっているキルトです。キルターだけが知ることのできる作り手の気持ち。これを大切にしてこれらも皆さんと一緒にフレンドシップキルトを作っていきたいと思っています。

By アン

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筆者プロフィール

藤原小百合アン
藤原小百合アン
アーミッシュキルトの盛んなアメリカ・オハイオ州の高校に留学中にアメリカン・パッチワークを習得。その後ハワイに移住し、マウイ島のハナ・マウイ・ホテルで出会ったハワイアンキルトのベッドカバーに一目惚れをし、ハワイアンキルトを始める。2001年9月11日、ニューヨークで起きた同時多発テロ事件の犠牲者とその家族への追悼キルト、『千羽鶴 フレンドシップキルト』を全国のキルターとともに完成させ、2009年9月、9.11メモリアルに寄贈。2010年スパリゾートハワイアンズ(福島県いわき市)にてキルト展を開催。2011年7月、ハワイで毎年開催される「キルトハワイ」において、オリジナルデザインの「マノアの森」キルトがグランプリ受賞。2012年7月、電子本「キルトストーリー」を発売。2012年9月、スパリゾートハワイアンズへ、フラガール・フレンドシップキルトを寄贈。2013年11月より、イオラニ宮殿の日本語ドーセントのボランティアを開始。2021年7月には誠文堂新光社より「ハワイアンキルト パターンとステッチの魅力」の増補改訂版を発売。ハワイ、日本での展示会やレッスンなど、伝統的なハワイアンキルトを広げるため、日々奔走中。ハワイ在住34年目。

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