ハワイ州の州花はマオ・ハウ・ヘレ(Mao hau hele)です。改めてこのように書くのは、ハワイ州の花を正しく答えられる人がいまだに少ないためです。その理由はいくつか考えられますが、その前に、この花の基本的な知識を確認してみましょう。
マオ・ハウ・ヘレはハイビスカスの一種です。ハワイのハイビスカスにはこのほかに、コキオ・ケオケオやコキオ・ウラ、ハウ・クアヒヴィなどが10種以上あります。いずれも分布域も個体数も少ないため、見たことがあるという人は少ないでしょう。ハイビスカスの仲間の近縁には、ハウ(オオハマボウ)やマオ(ハワイアンコットン)、ミロ(サキシマハマボウ)などがあります。日本ではフヨウやムクゲ、ワタ、オクラなどが良く知られており、いずれも長い花柱(雄しべと雌しべ)が花弁から突き出しているのが特徴です。
マオ・ハウ・ヘレはハワイ州の花ですが、初めから州花であったわけではありません。1923 年に最初に指定されたのは、コキオ・ウラ(赤いハイビスカス)でした。変更になった理由は、当時、このハイビスカスが純粋なハワイ固有種であるのか定かではなかったことと、野生種がとても少なく、目にする機会が少なかったためです。そこで州議会は再度審議し、1988 年にマオ・ハウ・ヘレを第2代の州花としました。
このようにして変更したにもかかわらず、マオ・ハウ・ヘレはあまり認知度が高くありません。皮肉なことに、この花もまたそれほどポピュラーではないからです。また、英名をハワイアン・イエロー・ネイティブ・ハイビスカスと呼ぶこともあり、街中でよく見られる黄色のハイビスカスであると勘違いする人が少なくありません。ちなみに、ワイキキや公園などでもっと多く見られる黄色のハイビスカスは、ハワイのハイビスカスと、中国原産のブッソウゲを掛け合わせたもので、通称をハワイアン・ハイビスカスと言います。黄色のものはハワイアン・イエロー・ハイビスカスと呼ばれるので州花の英名に良く似ています。
マオ・ハウ・ヘレと園芸品種のハイビスカスとの違いは比較的大きいのですが、日常的に目にしないため、区別がつかないというのが実情です。マオ・ハウ・ヘレの花弁はわずかにオレンジ色を帯びた黄色で花柱が太く、繊毛に被われます。蕾のうちはそれを包むように長い特徴的な萼があり、葉は大きく3~5裂します。実(み)は1~2cmで楕円形で繊毛に被われています。熟すと黄褐色となり、裂けて種子を放出します。種子は0.3cmほどで、同じく繊毛に被われています。
ハワイの州花となったマオ・ハウ・ヘレですが、ハワイの伝統文化において活用されたことはありません。元々それほど広く分布していなかったことに加え、19 世紀以降に⾏われた放牧でマオ・ハウ・ヘレの分布域はさらに縮小しました。ラナイ島においてはいまや絶滅危惧種となっています。この花を公園や植物園以外では見ることはあまりありません。しかし皮肉なことに、アメリカ本土の⻄部では観賞用として広く栽培されています。乾燥に強いためで、カリフォルニア州ではブーゲンビレアとともに人気があります。
マオ・ハウ・ヘレは低木で、樹高は 5〜10m、標高120〜800mの比較的乾燥した森に分布します。花のサイズは9〜12cm。花柱の基部を除き、花全体が⻩⾊一⾊。葉は5〜15cmで、花と同じく繊毛で被われています。花の基部には鋭いとげ状の突起があります。
本種には3つの亜種が知られていますが、いずれも絶滅危惧種です。花は3月から7月にかけて開花しますが、オアフ島では他の島より2ヶ月ほど早く開花します。花は、午前中は閉じていることが多く、午後2時から4 時前後に開きます。
マオ・ハウ・ヘレは日差しのよくあたる乾燥した土地に適しており、水をやりすぎると根腐れや測れ葉枯れを起こします。コキオ・ケオケオやコキオ・ウラなどは交雑しますが、州花はハワイのどのハイビスカスとも交雑しません。
ハワイ名は、Ma'o Hau Hele ですが、ハイビスカスの通称である Aloalo 呼ばれることもあります。学名は Hibiscus brackenridgei で、アオイ科フヨウ属です。brackenridgei という種小名は、アメリカ人のウィリアム・ダンロップ・ブラッケンリッジに由来します。彼は園芸家であり、ワシントン特別区の国立植物園の園長として知られます。英名は Hawaiian Native Yellow Hibiscus、和名はありません。原産地はニイハウ島とカホオラヴェ島を除く主要ハワイ諸島です。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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