ハワイの有害生物(2)
有害生物の2回目は哺乳類です。古くは先住のハワイ人が持ち込んだ動物から、開国後に世界中から持ち込まれた動物まで、ハワイ諸島には人の手によってさまざまな哺乳類が持ち込まれました。そのなかでも影響の大きなものを紹介します。
ブタ
先住ハワイ人が持ち込んだ動物は生きていくために欠かすことのできない食用としてでした。しかし、今日のハワイでは食用とされませんから、野生化したブタが増え続け、ハワイ固有の植物を荒らしたり、掘り起こした穴に水がたまるため、蚊の発生を促すなどの問題があります。環境保護団体は野生のブタを駆逐したいというのが本音ですが、先住ハワイ人の血を引く人たちの一部は、伝統文化として放置しておくことを望みます。
ヤギ
ハワイ島を中心にヤギの生息数はかなり増えています。シカとともに狩猟動物として持ち込まれたもので、ブタと同じく、ハワイ固有の自然環境を荒らします。狩猟対象として一定数を維持するため、禁猟期間が設けられています。
シカ(アクシスジカ)
シカもヤギと同じく、狩猟対象です。ラナイ島などではかなり生息数が増えています。
イヌ
野犬は森の奥深くに入り、鳥類や植物に影響を与えています。飼い主が環境保全に関心がない場合は、飼い犬も影響を与えます。オアフ島のカエナ岬では、度重なる忠告も効果がなく、多くの野鳥が殺されてしまいました。現在は岬の先端を中心に広大な土地をフェンスで覆っています。
ネコ
ネコはキャプテン・クックが来島してほどなく到来し、多くの野良猫が海抜ゼロメートルから1300メールほどのところに住み着き、野鳥や昆虫を補食しています。ネコはトキソプラズマという病原菌をハワイガラスに感染させたため、絶滅寸前の状態にあります。(※現在は全頭が管理下に置かれています。)
ウサギ
現時点ではそれほどの生息数はありませんが、瞬く間に生息数を増やすので要注意の対象となっています。
ネズミ(ドブネズミ、ハツカネズミ、クマネズミ)
ドブネズミは18世紀末にノルウェーの帆船に紛れて侵入したとされます。ハツカネズミは、1813年、クマネズミは1870年に到来しています。とくにクマネズミの生息範囲は広大で、海抜ゼロメートルから3700メートルに至ります。高地では野鳥を補食するほか、植物の種子や果実、花などを食べます。この他、ハワイ固有種で絶滅危惧ハウ・クアヒヴィの樹皮も食べます。また、ドブネズミとクマネズミは病原菌を媒介し、ハワイ諸島では1899年から1957年にかけてペストが発生したほか、レプトスピラ症も発生しました。
ウマ(野生馬)
ハワイに馬が導入された初期は、用済みの馬は放置され、それが野生馬と化しました。今日では野生馬はいないことになっています。誰の管理下にもない馬は国立公園局の管轄となります。
ウシ
牛は19世紀初頭、イギリス人のバンクーバーよりカメハメハ1世に献上されました。このときバンクーバーは、10年以上は放置し、自然増加を確認してから酪農用として利用することを進言しました。そのため、ハワイの原生自然は大きなダメージを受けました。
マングース
マングースは、蔓延するネズミ退治のため、1883年に導入されましたが、皮肉なことにネズミとは行動時間が異なり、何の役にも立ちませんでした。その上、野良猫とともにネネ(ハワイガン)が地上に生んだ卵を食べ尽くし、野生のネネを絶滅させました。(野生のネネとは別に、管理下におかれた30数羽を繁殖させ、今日では数千羽まで復活しています。)今日ではカウアイ島とラナイ島を除く主要6島の、標高2300メートルまで生息します。(※カウアイ島でも目撃例が数多く出ています。)また、人にはレプトスピラ症を感染させる場合があります。
ここに挙げた有害動物が主原因となり、ハワイ固有の野鳥の3分の2が絶滅しました。残る固有種は48種ですが、そのうちの30種は絶滅が危惧されています。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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