マウナ・ケアの誕生

ヒロの町から遠望する

ヒロの町からの遠望

ハワイ島には諸島の最高峰であるマウナ・ケアがあります。マウナ・ケアとは、ハワイ語で白い山という意味ですが、その名の通り、冬季間は雪が積もります。マウナ・ケアは100万年近く前に海底噴火をはじめ、30万年ほど以前に海上に顔を出したと言われます。いまから6、7万年前まで成長をつづけ、4、5千年ほど前に最後の噴火を起こしました。それ以来、この火山は噴火を起こしていません。山頂付近はつねに風が強く、風速70メートルを記録したこともあります。乾燥した空気と強風が、大気中に浮遊する塵を吹き払うため、山頂より上は澄み渡った空が広がります。

マウナ・ケアは、ハワイの伝統文化にとって最も神聖な場所でもあります。マウナ・ロアとマウナ・ケアを隔てる峠と、オニツカセンター、そして山頂には祭壇が設けられ、つねに供物が献げられています。また、マウナ・ケア山頂の西側にはポリアフの丘という聖地があります。ポリアフは雪と氷と寒さを司るマウナ・ケアの女神で、生命と水の神であるワーケア(あるいはカーネ)が、マウナ・オ・ワーケア(マウナ・ケアの本来の名前)から創り出したとされます。

ポリアフには霧の女神リリノエ、湖の女神ワイアウ(ワイアイエ)、フアラライ山の女神でカパ織りの達人でもあるカホウポカーネという3人の妹がいて、彼女たちは、夏は太陽の光線を編んだ黄金の衣服を、冬は純白の雪を編んだケープを身にまとって下界の人間たちに安らぎを与えました。

ワイアウ湖

ワイアウ湖

 

マウナ・ケアはポリネシア人だけが暮らした古代社会の聖地として重要な位置を占めていましたが、それ以外にも大きな役割がありました。氷河期時代に出現した凍土の下で押し固められた溶岩は、きわめて硬い石に変化しました。この石は生活道具や武器として、ハワイ諸島だけでなく、広くポリネシアの島々でも使われました。

標高4000m地点にはワイアウ湖があります。ハワイ島の伝統社会では、赤ん坊が産まれると、その臍の緒を持って山を登り、ワイアウ湖に投げ入れて子どもの健康と成功を祈願したと言われます。

コアの巨木が林立するハカラウの森

コアの巨木が林立するハカラウの森

マウナ・ケアの北東山麓には深い緑の森が広がります。一帯にはアカカ滝をはじめとする多くの滝や、野鳥のサンクチュアリとして知られるハカラウの森などがあります。この森にはオヒアやコアなどの樹木や、ハワイミツスイなどの生息地があり、環境保全のために管理されています。

マウナ・ケアに押し寄せる貿易風は標高2000mほどのレベルに雲海をつくりますが、雲は滅多にそれ以上の高さに達しません。また、下界に大都市はなく、わずかな光も雲海に遮られるせいで日没後は遮るもののない美しい星空が広がります。

マウナ・ケア山頂と天文台のシルエット

マウナ・ケア山頂と天文台のシルエット

天体観測を行うには晴天率が高いだけでなく、大気が安定していることも大切です。星が瞬くのは美しく感じられますが、これは大気の乱れによるものですから、超高性能の天体望遠鏡では大きな障害となります。標高4200mを超えるマウナ・ケア山頂は空気が薄く、星の光りを受け取りやすいというメリットがあります。加えて山頂まで車道があり、アクセスも悪くありません。

この山は科学の最先端を担うことで知られますが、同時に伝統文化においては聖地でもあります。いまもその信仰は引き継がれ、山頂を管理するレンジャーのなかにはカフナと呼ばれる祭司も駐在します。早朝に彼らのチャント(詠唱)を聞く機会があればぜひ体験してください。言葉はわからなくても、その意味するところを肌で感じることができるでしょう。

マウナ・ロアから望む日没直後のマウナ・ケア

マウナ・ロアから望む日没直後のマウナ・ケア

筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。

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