この間まで冬の渡り鳥がたくさんいたのに、もうツバメの姿を見かけるようになりました。愛鳥週間がある今月は、ハワイに住む鳥たちをご紹介しましょう。今回ご紹介するのは、水辺で見かけるハワイ固有種の鳥たちです。

‘Alae ke‘oke‘o(アラエ・ケオケオ)

ハワイ固有種のアラエ・ケオケオは、アメリカ・オオバンの亜種です。日本で見かけるオオバンともよく似ています。
アラエ・ケオケオは、アメリカ・オオバンに比べると体長はやや小さく、額板(クチバシの上の部分)が大きめです。この額板とクチバシが白いこと(額板の一部が褐色の個体もいます)が、アラエ・ケオケオの名前の由来になっています。ケオはハワイ語で「白」という意味です。
アラエ・ケオケオが池で泳いでいるところを見ると、小さなカモのようですが、実はクイナ科。足には水かきはなく、長い指があります。この足で縄張りに入ってきた他の鳥たちを蹴ることもあるそうです。アラエ・ケオケオは淡水の湿地や池、タロイモ畑などで生息しています。雑食で、草(水草なども)や種子、カタツムリや昆虫、オタマジャクシや小魚などを食べています。古代ハワイではアラエ・ケオケオを神として崇拝していましたが、同時に食用にもしていたそうです。

クチバシと額板が白い、アラエ・ケオケオ

クチバシと額板が白い、アラエ・ケオケオ

多くのハワイ固有種の鳥たちと同様に、アラエ・ケオケオも絶滅が危惧されています。ハワイではカホラヴェ島を除く主要な島々でアラエ・ケオケオの生息が確認されていますが、生息地は限定的であり生息数もわずかです。
数が減った理由は、生息地の喪失や環境の悪化、外来種による捕食など多々あります。一時は1000羽を切っていた生息数ですが、近年はやや増えて2000羽ほどだそうですが、それでも少ないですね。

タロ畑を歩くアラエ・ケオケオ

タロ畑を歩くアラエ・ケオケオ

絶滅の危機にあるアラエ・ケオケオですが、ゴルフ場の池などでも繁殖することがあるそうです。私はモロカイ島の工場敷地内の溜池で、営巣しているアラエ・ケオケオを見たことがあります。池の上に浮いたボディ・ボードの上に、アラエ・ケオケオは巣を作っていました。人の目が届く場所の方が、案外安心して巣作りができるのかもしれません。

ボディ・ボードの上で営巣するアラエ・ケオケオ

ボディ・ボードの上で営巣するアラエ・ケオケオ

‘Alae ‘ula(アラエ・ウラ)

アラエ・ウラもハワイ固有種の鳥です。アラエ・ケオケオと同様、北アメリカにルーツを持つバンの亜種です。日本のバンとも似ていますね。アラエ・ケオケオより、ひとまわり小さく、名前の通りクチバシと額板が赤い(ハワイ語で「赤」はウラ)ことが特徴です。アラエ・ウラとアラエ・ケオケオは同じクイナの仲間なので、クチバシと額板の色以外はよく似ています。生息場所や食べ物もほとんど同じです。そして、絶滅が危惧されている事も同様です。
アラエ・ウラはアラエ・ケオケオよりも更に厳しい状況にあり、生息数は750羽ほどとも、もっと少ないとも言われています。アラエ・ウラはカウアイ島とオアフ島に生息していますが他の島(マウイ島とハワイ島での目撃情報があるそう)では、ほぼいません。私がアラウ・ウラをよく見かけるのは、カウアイ島のハナレイです。ハナレイに広がるタロ畑で、アラエ・ウラがちょこちょこ歩いている姿を度々見ることができました。

アラエ・ウラのクチバシと額板は赤

アラエ・ウラのクチバシと額板は赤

アラエ・ウラもアラエ・ケオケオも、ハワイの文化に関わりが深い鳥たちです。
アラエたちは、ハワイの伝説にも度々登場します。半神半人のマウイが海から島を引き上げた話は、ハワイだけではなくポリネシア文化圏に伝わるポピュラーな伝説の一つです。ハワイでは、マウイが魔法の釣り針で島を引き上げた話として伝わっています。その時にマウイの母でもある女神ヒナのペットであったアラエを、エサとして使ったそうです。可哀想なアラエ・・・。

タロ畑のアラエ・ウラ

タロ畑のアラエ・ウラ

マウイとアラエの話はまだあります。
人間が火を起こせなかった頃、マウイはアラエたちが火の起こし方を知っているに違いない、と気がつきました。まさにアラエが火を起こしている現場で、マウイは一羽のアラエを捕まえ「火の起こし方を教えろ!」と迫りました。火を起こす方法は秘密だったのでアラエは「バナナをこするんです」とか「タロの茎をこするんです」などと嘘をマウイに教えます。
もちろんそんな方法では、火は起こせません。怒ったマウイはアラエの頭を小枝で強くこすり「火はどうやって起こすんだ!」と脅しました。ついにアラエは「乾いた小枝で、白檀の樹皮とハウの繊維をこすります」と教えてしまいました。それ以来、アラエのクチバシと額板は赤くなってしまったそうです。本当に可哀想なアラエ・・・。

アラエ・ウラとネネ。アラエ・ウラもネネもお互いのことをあまり気にしていない様子

アラエ・ウラとネネ。アラエ・ウラもネネもお互いのことをあまり気にしていない様子

アラエが人間に火をもたらした話には、別のパターンもあります。
寒さに凍える人間を憐れんだアラエが、火山の火口から火を盗んで来てくれた、という話です。火を運んでいる時に、アラエのクチバシと額は火傷してしまい赤くなったそうです。アラエと火の話は、どちらもクチバシと額板が白いアラエ(アラエ・ケオケオ)が、赤いアラエ(アラエ・ウラ)になった、という話なのが興味深いですね。

筆者プロフィール

NOPU
NOPU
ハワイは20年来、ネイバーアイランドへのリピーター。バードウオッチと植物観察が好きで、ハワイでもトレッキングをしながら探鳥を楽しんでいる。ローカル・レストランと古い建物の探求、地元のイベントに参加することも好き。
ALOHA NOPU:http://www.alohanopu.sakura.ne.jp/

Follow me!