コアはハワイにしか存在しない樹木です。ハワイ諸島に入植した人々はこの木からカヌーを作るなど、暮らしになくてはならない木として利用しました。

コアの森(カウアイ島コケエ)

コアの森(カウアイ島コケエ)

ハワイには多くの樹木がありますが、伝統文化においてカヌーは欠かせぬ道具であり、最高の性能を発揮する材料としてコアの木が用いられました。カヌーの完成には多くの工程と時間を必要とするため、伐採や製作、進水式にはさまざまな儀式が伴いました。夢のお告げや神々への祈りなど多くのカプ(規則)があったのです。

最初にコアという植物の特徴を見ておきましょう。コアはアカシアの仲間で、マメ科に属します。5年ほどで成木(6~9m)となり、その後も生長を続け、最終的には15~35mとなります。すでに倒れてしまいましたが、ハワイ島にあった最大のコアは樹高43mに達しました。

コアは、ハワイ島、モロカイ島、マウイ島、ラナイ島、オアフ島、カウアイ島の、標高100mから2,300mに生育します。巨樹になると毎日1トンもの水を吸い上げるため、年間の降雨量は850mmから5000mmを必要とします。また、その土壌は酸性か中性であること、雨が多いだけでなく、水はけの良い土壌であることも重要です。コアの根には窒素の固定能力があるため、溶岩が冷え固まったばかりのような若い土壌でも生育することができます。コアはオヒア・レフアとともに、在来の植物としてはハワイ諸島でもっとも広く分布します。

ボンボン状の花の直径は7mmから10mmほどで、初めは薄い青緑色をしていますが、受粉を行なうと花粉によって淡い黄色となります。ボンボン状のため、遠目にはミモザやハオレ・コア、フトモモ科のユーカリなどにも似ています。花期は1月~3月ですが、環境によっては周年で花をつけることもあります。花は受粉を終えると8cmから30cmほどの豆果をつけます。

受粉したコアの花

受粉したコアの花

若い枝には小さな葉と大きな三日月型の葉がつきます。小さな葉が本葉(本当の葉)で、三日月の葉は偽葉です。偽葉は、本来は葉柄(葉の茎の部分)なのですが、光を効率よく取り込むために、肥大化して葉の役割を果たすようになりました。偽葉のサイズは短いもので5cmほど、長いものは30cmを超します。葉の幅は0.5cmから5cmほどです。本葉も偽葉も表面はザラザラとしていて、淡緑色または緑色です。大きな葉はコア・ラウ・ヌイと呼ばれますが、この場合の大葉とは偽葉を指します。

本葉と偽葉

本葉と偽葉

豆果は、コアの生長過程で5年から30年の時期につけます。サヤの長さは7.5cmから15cm、幅は1.5cmから2.5cmです。1つのサヤには平均12個の種子が含まれ、それぞれの大きさは、長さが0.6cmから1.2cm、幅は0.4cmから0.7cmほどの扁平な楕円形で、暗褐色または黒色をしています。サヤが緑から茶色や黒に変わると完熟し、繁殖に適した状態となります。種子は硬い外皮で覆われているため、豆果は最長25年もの間、休眠状態を取ることができます。

コアは生長が早く、最初の5年間は1年に15cmのペースで育ち、標高の高い土地では最終的に30mを超す巨樹となります。このような成木があったため、長距離航海用のカヌーを製作できました。コアは、その生育環境によって、低木で横に枝を広げるタイプから、杉や檜のように、真っ直ぐに伸び、下部にはあまり枝をつけないものまで様々な亜種があります。

コアの用途

前述したように、コアの幹を加工してカヌー(ワア)を製作しました。全長が20mを超える長距離用のダブルカヌーから、片側にフロートを取り付けた10m前後のアウトリガーカヌーまで、さまざまな形に加工されました。

マルケサスやタヒチから長距離航海のカヌーでハワイに移住したポリネシア人たちは、カマニという木の幹をくり抜いたカヌーを用いました。しかしハワイ諸島にはカマニの木がなかったため、コアがそれに取って代わりました。

コア材のカヌー(ベイリーハウス・ミュージアム)

コア材のカヌー(ベイリーハウス・ミュージアム)

カヌーの原木となる木は樹高があり、幹が太くなければなりません。それに加え、軽く、しなやかで、腐りにくい材質でなければなりませんでした。コアはしなやかで油分が多いため、ハワイに入植した人々の希望にぴったりの特性を備えた木材でした。人々はコアを育む森を大切にしました。

カヌーはハワイの人々にとって何よりも大切な道具だったので、製作にあたっては、どのような材料(原木)を選び、どのように切り出し、どのように完成させるかということについて厳しい規則(カプ)がありました。カヌーは彼らの命を委ねる道具ですから、彼らを護る神聖な存在でもありました。

コアとはハワイ語で「戦士」や「勇気」という意味もあります。カヌーは長距離航海や漁業での必需品でしたが、戦いの道具(武器)でもありました。そのようなわけで、コアの幼木はフラの女神ラカに捧げられました。初期のハワイでは、フラとコアは密接な関係にあり、踊り手は勇気が与えられるという理由でラカに祈願したとされます。

レイ・オ・マノと呼ばれる棍棒

レイ・オ・マノと呼ばれる棍棒

このように、コアは人々に勇気を与える象徴だったため、「E ola koa(コアの木のように生きよ)」といった格言が生まれました。コアを通じて分かることは、社会での役割が極めて重要なものは神性があるとされ、これに関わる神が誕生することに繋がっていくということです。

コアからはサーフボード(パパ・ヘエ・ナル)も製作されました。パイポと呼ばれたボディーボードの素材はコア材でしたが、ショートボード(キコオ、アライア)やロングボード(オロ)には、コアよりさらに軽量で浮力のあるウィリウィリの材が使われました。

コアはカヌーの他に武器の部材としても使われました。しかしそれ以外の利用はあまりありません。臭いが強いため食器には向かず、材が軟らかいため、耐久性を求められる道具としても不向きなためです。

今日の利用

コアの樹皮は明るい灰色をしています。切り口は赤く美しい光沢があり、木目がはっきりとしています。コアは比較的柔軟性のある木で、大木でも強風が吹きつけるとしなります。

コア材の断面

コア材の断面

内部が圧縮されたり引き延ばされるということを繰り返します。その結果、材は波打った状態となります。この材を切断すると、その表面に微妙な歪みが現れます。これを虎目(とらめ)またはカーリーと呼びます。虎目は光のあたる角度によって、さまざまな色合いになるため、高級家具やウクレレなどの楽器、工芸品などに用いられます。

機械を使って平らに削り出しても、コア材は全体にうねりがあるので、光をあてた状態で表面を傾けると、見た目の色が微妙に変わります。ウクレレなど、工芸品で虎目のあるコア材がとくに高価なのは、それが理由です。

虎目(カーリー)

虎目(カーリー)

リリウオカラニ女王のピアノや、エマ女王に寄贈されたセント・ピータース教会の長椅子、あるいは、ハワイ島知事クアキニのフリヘエ・パレス、彼が建てたモクアイカウア教会の説教壇や壁板など、歴史的建造物の要所要所にコア材が使われました。

コアはまた、ジュエルケースや葉巻入れ、ブックエンドやコースターなど、木工工芸品として高級なハワイ土産としても定番化しています。

ハワイ王国時代には高級木材として、カヌーのほかに槍の柄や建材として使用されました。なかでもイオラニ宮殿はコア材の集大成と言えるでしょう。

モクアイカウア教会とコア材

モクアイカウア教会とコア材

筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。

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