ハワイには多くの魅力がありますが、そのひとつに植物の文化が挙げられます。色とりどりの花があるだけなく、その花を用いたレイの文化やキルトの文化があるのは、植物を用いたハワイの伝統文化があるためです。
薬品、食品、海や畑の道具、衣類、武器、建具など、植物は観賞用としての役割ではなく、暮らしに不可欠な素材として持ち込まれました。このことは、ハワイの集落での暮らしすべてが植物で成り立っていたことを意味します。植物以外には石、骨、髪の毛などを用いました。今日に伝わるハワイの文化遺産はすべて植物とこれらの素材でできていました。
暮らしに必須の植物はすべて航海に用いたカヌーで持ち込まれたため、これらの伝統植物はカヌー・プランツとも呼ばれます。以下、多少の相違はありますが、24種類の植物が知られます。
ハウ(オオハマボウ)
樹皮は剥がれやすいのですが、そこからとった繊維は非常に強く、建物やカヌーの部材を結び合わせるロープとして用いられました。軽い材は釣りの浮きや、カヌーの部材となりました。漁業が行われない日は、ハウの枝を海岸に突き刺して目印としました。また、葉をよく茂らせるので、タロイモの水田を囲むように植えられ、水の蒸発防止用としました。樹皮と花の樹液は便秘や鬱血、出産の際に用いられました。
ミロ(サキシマハマボウ)
材(木の幹や枝の太い部分)は「ウメケ・ラ・アウ」と呼ばれる食料保存箱として用いられました。また、戦闘用のカヌーの船体部分はミロでつくられました。このカヌーはホノルルにあるビショップ・ミュージアムで見ることができます。
ノニ(ヤエヤマアオキ)
熟すと悪臭を放つことで知られる果実は湿布薬に、果実と花は腎臓炎や膀胱炎に用いられました。今日ではノニ・ジュースという健康飲料として世界各地で飲まれます。また、高血圧や癌の予防に効果があるとして利用されています。
オヘ(タケ)
英名でゴールデン・バーンブーと呼ばれる竹の一種です。オヘ・ハノ・イフと呼ばれる鼻笛や、プ・イリと呼ばれるスティックなど、さまざまな楽器がつくられました。また、水筒としても用いられました。ハワイ諸島では日本人移民が持ち込んだマダケ(真竹)の繁殖が在来の植物を駆逐するという問題があります。カウアイ島やマウイ島などでは巨大な森を誕生させています。
コー(サトウキビ)
茎の中にある樹液をそのまま飲んだり、タロやマイア(バナナ)、ウル(パンノキ)などに混ぜて甘みを加えたりしました。乾燥させたものは産業用と同じく、砂糖として用いられました。また、作物畑の境界線やタロ畑の畦に植えられました。ハワイ諸島では19世紀から砂糖産業が発展し、原料であるサトウキビの農園が最盛期には100を超えました。(*これらのサトウキビはハワイにそれ以前からあるサトウキビとは別種です。)
イプ(ヒョウタン)
水を運ぶ容器として、あるいはフラの儀式には不可欠の楽器として用いられました。とくにイプ・ヘケという、2つのイプの口部分をあわせて固めた打楽器は、神々への祈りの際や王の戴冠式などの際に、パフ(*後述)とともに重要な役割を果たしました。
カマニ(テリハボク)
大きく伸ばした枝に大振りの葉をつけるため、 家の日除けとして植えられました。また、ククイ油の代用品となりました。実はレイの素材に、芳香のある花はカパ(布地の一種)の香り付けに用いられました。材は台所用品やカヌーの部材となりました。ポリネシア人がマルケサス諸島やタヒチから移住してきたときのカヌーは、カマニからつくられました。
ワウケ(カジノキ)
柔らかく繊維質の、巨大な葉を付けます。この葉はカパ(タパ)という不織布の素材となりました。布の素材となる植物は他にもありましたが、ワウケは最良とされました。とくにベッドの敷物として多用されました。また、樹皮の繊維からはロープがつくられました。
ウル(パンノキ)
果実は日常の食用にもされましたが、飢饉の際の非常食として重要でした。樹皮から採れる樹液はカヌーの目止め剤や皮膚病の軟膏として用いられました。同じく樹皮はカパの素材となりましたが、ワウケよりは品質が劣りました。葉はざらつきがあるため、楽器や食器の仕上げ研磨剤として用いられました。また、茶色の染色剤ともなりました。材はサーフボードや楽器として用いることもありました。
カヴァ / アヴァ
コショウ科に属するカヴァは、葉や茎に鎮静成分が含まれており、アルコールに代わる飲料として用いられました。ハワイには何店かカヴァ・バーがあり、カヴァの効用を体験することができます。また、睡眠導入や解熱、筋肉痛の緩和などに用いられました。アヴァの樹液は、島の外から来賓を迎えるときの儀式に欠かせぬ飲み物で、今日でも一部で利用されています。
アペ(インドクワズイモ)
味はあまり良くありませんが、最大二キロの根茎(芋)が採れるため、カロ(タロイモ)が収穫できないときの代用食物として栽培されました。一部で野生化し、巨大な葉を広げています。
カロ(タロイモ)
カロはハワイの伝統社会における主食で、根茎(芋)の部分はポイと呼ばれるペースト状の食物にして食べられました。ル・アウと呼ばれる茹でた葉も食用となります。日本の米と同じように各地域で独自のカロが栽培されてきた結果、かつては500以上の品種がありました。今日でも各地で栽培され、一部の人々には主食とされています。
アヴァプヒ・クアヒヴィ
シャンプージンジャーという英名があります。名の由来は、花穂に含まれる芳香のある水分が髪の毛を洗う際に用いられたためです。また、カパ(タパ)の芳香剤として用いられることもありました。
オーレナ(ウコン)
根の部分は黄金色の染色剤としてカパに用いられました。根茎(芋)は耳痛や結核の治療に、海水と混ぜ合わせたエキスは浄めの儀式に用いられました。今日ではカレーなどの原料や活力剤として世界各地で用いられています。
ピア(タシロイモ)
根茎(芋)部分にあるデンプンは、ココナッツ・クリームと混ぜ合わせてハウピアと呼ばれる甘いデザートがつくられました。このデザートは今日でも一部のレストランやカフェで食べることができます。また、腸炎の薬として用いられました。
ククイ(ハワイアブラギリ)
焦がした実は耐久性のある黒の顔料となり、入れ墨やカヌーの彩色、カパ(タパ)の染色などに用いられました。実の油分は灯火用として重要でした。また、木の防腐剤や、カンジダ症、便秘などの治療薬としても用いられました。実のなかにある白い仁(じん)に塩を混ぜ合わせたものはイナモナと呼ばれる調味料となりました。花と葉、実はレイの素材として今日も利用されています。
マイア(バナナ)
葉はキー(*後述)と同じく、食物を包んで調理するのに用いられました。茎の部分はイム(*地面のなかにつくられたオーブン)をする際にくべられ、水分補給に用いられました。カロが不作の際は主食のひとつとなりました。マイアには大別すると、生食用と調理用(クッキング・バナナ)とがあります。伝統社会ではいくつかの例外を除き、女性はバナナを食べることができませんでした。
ウアラ(サツマイモ)
根茎(芋)の部分はカロに次いで重要な作物でした。カロがあまり育たないニイハウ島では主食として食べられました。根茎は飼料としてブタに与えたり、釣りなどのコマセとして用いられることもありました。また、異物や毒性のあるものを飲みこんだときの吐瀉や、喘息、不眠症の治療薬ともなりました。
オーヒア・アイ(マウンテン・アップル)
よく熟した果実は生食されました。今日でも果樹として栽培されることがあり、完熟するとリンゴのような味となり、おいしく食べられます。材と根の部分の樹皮からは褐色の染色材が、果実からは赤色の染色剤がつくられました。樹皮に含まれる樹液は喉の痛みを和らげるのに用いられました。
アウフフ
アウフフにはテフロシンという成分が含まれており、アウフフを絞った汁は魚を一時的に麻痺させることができます。ただし人を含む哺乳類には影響がないため、小川やフィッシュ・ポンドの一部を囲い、そこに樹液を流して小魚を痺れさせて、手づかみで採るという漁が行われました。
コウ(キバナイヌチシャ)
芳香のあるオレンジ色の花はレイに、樹皮からは褐色の染色剤をつくられました。諸島各地の植物園をはじめ、ワイキキのカラーカウア大通りでも見ることができます。
ニウ(ココヤシ)
幹は建材やカヌー、楽器、食器などに、葉は屋根葺きの材料や、籠などの編み細工に用いられました。なかでもパフと呼ばれる打楽器は、フラを踊る際に拍子をとる楽器(パフ・フラ)として用いられました。また1メートルを超す大きなパフも作られ、神々への祈りを捧げる際に、その声を聞くもの(パフ・ヘイアウ)として重要な役割を果たしました。葉はほうきや燈火の支柱に、果実は食用や食器として、果実内部の繊維はロープに用いられました。
ウヒ(ヤムイモ)
カロの栽培に向かない乾燥した土地で栽培されました。根茎(芋)の部分が大きく、カロが凶作のときの非常食とされました。ただし大味であまりおいしいものではありません。今日でもイベントなどで用意されることがあります。
キー / ティ(センネンボク)
フラのスカートやレイの素材として用いられました。根から採った樹液を発酵させたオコレハオと呼ばれる酒をつくり、船乗りが決められたときに飲用したりしました。家の周りに植えると悪霊が侵入するのを防ぐことができると信じられていて、今日でも庭の植栽として利用されています。水に浸けたキーの葉を人や特定の場所に振りかけて浄めの儀式を行いました。葉は喘息治療に用いられたほか、冷水に浸けたものを肌に貼りつけて熱冷ましとなりました。熱した石を葉で包んだものは、背中の痛み止めとして用いられました。
筆者プロフィール

- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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