ミロはポリネシア人がハワイに持ちこんだ伝統植物のひとつです。ミロからはさまざまな木工品が作られましたが、それらは基本的に伝統社会におけるアリイ(首長)やカフナ(祭司)、及び彼らの直属の部下など、上流階級だけが使えるものでした。成長が早く、葉を密生してつけるために強い日差を遮ってくれる木として、海沿いの土地ではよく用いられました。

咲き初めの花

咲き初めの花

伝統社会とミロの役割

ミロは高貴な木*1として、ヘイアウ(神殿)に植えられることもありました。また、チャント(詠唱)を唱える人物にマナ(霊的な⼒)を与えるとも言われます。カメハメハ1 世が住んだホノルルの住まいはミロの木に囲まれていたとされます。

ミロはきわめて塩害に強く、根が海水に浸かっていても育ちます。種子は海流に乗って漂流し、他の島に漂着すると海岸で発芽します。このような移動と発芽の性質はココヤシやマングローブに似ています。また、性質がハウ(オオハマボウ)に似ているため、ハウとともに育つこともあります。朝に明るいクリーム色の花をつけ、夕方濃いピンクから紫色になって落ちる一日花であるところもハウと似ています。

夕刻に色が変わった花

夕刻に色が変わった花

咲き初めの花を正面から覗く

咲き初めの花を正面から覗く

ミロはほとんど臭いがないため、ウメケ・アイ(ポイ*2を入れる容器)や、ウメケ・ラーアウと呼ばれる食料保存箱*3として利用されました。ただし、通常の使用では臭いを感じませんが、木と木とこすり合わせるとバラのような香りがほのかに立ち昇ります。

*1 タヒチでも神殿に植える木として知られます。
*2 ポイとは、タロイモを茹でたり蒸かしたりしたものに水を加えながら潰してペースト状にしたもの。
*3 食器としてはコウ(キバナイヌチシャ)で作られたものの方が人気がありました。

イプ(ヒョウタン)で作られたウメケ・パーヴェ(装飾器)、ウメケ・アイに同じ

イプ(ヒョウタン)で作られたウメケ・パーヴェ(装飾器)、ウメケ・アイに同じ

 

戦闘用のカヌーはミロの木で作られました。樹皮はロープに使われましたが、ハウやオロナほどの強靱さはありません。材(幹)は食器だけでなく家具にも用いられました。果実からは黄色の染料を採りました。

今日、ミロの巨木はコアやオヒアと並び、床材や壁材、大型の家具材として人気があります。また、まれにウクレレなどの楽器の素材としても使われます。

ハート型の葉と表皮を削って黄色の液を出した実

ハート型の葉と表皮を削って黄色の液を出した実

植物知識

ミロ(milo)はアオイ科サキシマハマボウ(テレペシア)属の植物で、和名をサキシマハマボウ、あるいはトウユウナと言います。ハイビスカスの仲間で、ハウと外観や性質が似ています。ミロは熱帯アジアの原産ですが、わが国でも沖永良部から先島諸島周辺に広く分布します。

学名はThespesia populnea と言い、「Thespesia」には「神聖な」という意味があります。アジアでは寺院の脇に植えられていたことによります。「populnea」は「ポプラのような」という意味で、ミロの葉がポプラの葉に似ていることが由来です。ミロはマルケサスやタヒチから持ちこまれましたが、タヒチでも寺院(モライ)に植える木として知られていました。詠唱(チャント)を唱える人物に霊的な力(マナ)を与えるとも言われています。ちなみにこの学名はシーボルトが命名しました。和名のサキシマハマボウのうち、サキシマとは先島諸島、ハマボウとは「浜に生育するホオノキ(に似た植物)」を短縮したものです。

水辺のハウ

水辺のハウ

ハワイ名:Milo
学名:Thespesia populnea / アオイ科サキシマハマボウ属
英名:Portia tree
和名:サキシマハマボウ、トウユウナ、ヤマユウナ、ウーハ
原産地:熱帯アジア〜 インド洋・太平洋諸島 / 伝統植物(外来種)
特徴:低木〜高木(5〜20m)。海岸に分布。塩害に強く、根が海水に浸かるような場所でも育つ。しかし高所や日射の少ない場所では育たない。ハウに似る花をつけるが、筒型で開ききることはない。葉はオオハマボウより長くハート型をしている。長さは5~20cm。革質で表面に光沢がある。花のサイズは5〜8cm。葉巻のような筒状の長い蕾をつけるが、完全には開ききらない。咲き始めは淡⻩⾊だが次第に紫⾊となり、夕方か翌朝に落花する。果実は直径2~4cm。ミニチュアのカボチャに似た形をしている。若い果実は表皮に傷をつけると黄色い液体が染み出す。ココヤシやマングローブのように海流に乗って他の島に漂着し、そこで発芽する。反対に、高所や⽇射の少ない場所では育たない。

葉が生い茂るミロの木

葉が生い茂るミロの木

マウイ島では南部のラペルーズ湾やカフルイ近郊のカナハ・ビーチ、モロカイ島ではハラヴァ湾、オアフ島ではココ・クレーターなどで小群落が見られます。また、植樹が進むカホオラヴェ島でも見られるようになりました。

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。