ハワイの果実で代表的なもののひとつにバナナがあります。ハワイ語でマイア(Mai'a)と呼ばれるバナナはバショウ科の植物で、今日の主流である食用の種なしバナナはマレー半島が原産です。その後、インドの野生種との間で交雑種ができ、これがポリネシア人の手によってタヒチを経由してハワイに持ちこまれました。バナナは周年で実をつけます。また、非常に強い植物で、病気になったり害虫にやられることはあまりありません。バナナにはカリウムや鉄分、カルシウム、燐、それにビタミンが豊富で、とくにビタミンBとCが多く含まれています。
バナナは木と見間違えるほど大きく育ちますが、稲や麦と同じ、草の一種(草本)です。幹のようにみえる部分は葉が重なり合った葉柄と呼ばれるもので、断面はタマネギによく似ています。幹に似た葉柄は3mから8mほどの高さになります。葉柄の太さは20cmほど、そこに花をつける茎(花茎)が伸びます。花茎は60cmから90cmほどです。全体は赤紫色の、幾重もの苞に包まれています。1枚の苞が外側に開いた状態を観察すると、その基部には黄色の小花が2列になってついているのがわかります。この花の内側(中心側)にも苞があり、それを開くと、またそこに花があり、さらに苞があるというように、交互に並びます。
バナナの果実全体を全房、房の一段一段を花段と呼びます。全房は5段から20段あり、1段あたり2本から20本の果実をつけます。バナナの花には受粉のプロセスはないので、地下茎から出る芽を摘んで植えます。葉は螺旋状に付き、最大で2m近くに成長します。栽培には高温(摂氏21度以上)で多雨(年間2000~2500mm)の環境を必要とします。
バナナは数個の房がつくと花の部分を切り落とします。そのままにしておくと房が増え続け、実のひとつひとつが大きく成長しないためです。花のある苞は調理して食べることができます。蕾の赤紫色の苞を剥いでいくと、やがて苞の色が白っぽくなります。これをカットし、炒めて食べます。ジャガイモに似た味で、中華系のスーパーなどでよく見かけます。蕾の炒め物はハワイの食文化にはありませんが、太平洋の島々では伝統的な食材です。
この蕾からは花汁も摂れます。これは滋養強壮や胃の不消化などのときに服用しました。ハワイではこのほかに、完熟したバナナの実を喘息の緩和に、茹でたバナナの実を他の植物と調合して便秘薬として用いました。また、染色や酒や袋、網、家畜飼料、傘、屋根材など、きわめて多くのことに用いられました。
バナナには50以上の種類があり、古くから食用として改良が重ねられてきました。今日のハワイ諸島では、バナナは山や渓谷などで野生化しています。バナナは通常タロイモ水田(ロイ)の周囲に植えられましたが、旅人が飢えをしのぐためとして原野に植えたり、友人の畑に植えることもありました。植え付けはしきたりにのっとって行われることが多く、満月の夜や正午に植えられたりしました。掘る穴の深さは肘までの長さ(ハイリマ)と決められていました。
ハワイの日々の暮らしにはさまざまなカプ(ルール)が設けられました。バナナは太平洋の島々では重要な食糧のひとつで、多くの神話や物語に登場します。ハワイの伝説では、ペレの兄弟がタヒチからハワイにバナナを持ってきたと信じられました。
ハワイの人々にとってバナナはキノ・ラウ(神々の化身)でもありました。たとえば火の女神ペレは若い女性や溶岩、オヒアレフア、あるいは老婆などに化身することが知られています。マイアの場合は、ハワイの4大神のひとつであるカナロアのキノ・ラウとされました。
ときおり飢饉が起きたハワイ諸島では、日本の米のようにルールが作られました。たとえば黄色に熟した「マイア・イホ・レナ」と「マイア・ポポ・ウラ」は、女性は食べることができませんでした。食べたことが知れると死が待ち受けていたのです。このようなカプはカメハメハ大王が亡くなり、リホリホがこれを廃止するまで続きました。
ハワイの伝統社会では、バナナの夢を見たりバナナを運ぶ者と出会うことあるいは船旅のときにバナナを持って行くのは不運をもたらすとも言われました。また、笑って話すのは熟れたバナナのようだとか、美しい人は若いバナナの葉のようだという喩えもあります。バナナはハワイの暮らしに深く根づいていたため多くの説話が残されています。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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