数年前(2009年)に『ホノカア・ボーイ』という映画が公開され、ハワイ島北部にあるこの小さな町について興味を持つ人が多くなりました。そこで、日本人や日系人に関わりの深いホノカアの町の魅力を2回に分け、異なる物語をお伝えします。
ホノカアの町は、多くのハワイの町と同じく、砂糖産業で発展しました。収穫したサトウキビは、この町からヒロまで延びる鉄道で運ばれました。しかし砂糖産業が衰退しはじめると、この町は次第に活気を失っていきます。しかし、小さな規模になっても当時のイメージをたいせつにしてきました。
この町の人と建物について、映画を通じて紹介しましょう。同名の原作は、吉田カバンの御曹司である吉田玲雄氏が書いたノンフィクション(実際にはかなりフィクションの部分もあります)です。
月の虹をみようと恋人とともにハワイ島を訪れた主人公のレオは、目的を達することなく帰国する。やがて失恋し、大学を休学して再びホノカアの町を訪れ、そのまま住み着いてしまう。ピープルズ・シアターというローカルな映画館でアルバイトをしながら、ときにサーフィンに行ったり、ときに口うるさい女性に行動を諫められたり、坂の上のレストランでマラサダを食べたりという日常を過ごします。
しかし、物語の根幹は異なるところにあります。いまは未亡人として暮らすビーさん(Bea Okamoto)の母性に見守られながら、祖母とも言える年齢の女性に食事を摂りに来るように言われ、通い詰めることになる。そこには形容のできないほのぼのとした男女の時間の流れがあるはずでしたが、レオに新しい彼女ができると、無残にもビーの思いは切り裂かれてしまいます。そのショックで失明してしまうビーを労ることなく、レオは少しずつ彼女から遠ざかり、やがて伝言ひとつ残さず日本へ戻ってしまいます。
レオは彼女の思いに気づくそぶりさえ見せず、次第に憔悴するビーを哀れむことも、葛藤することもありません。彼の関心はすでにそこにはなかったのでしょう。そこにこの物語の辛さ、儚さが流れているのかもしれません。
物語に登場するビーさんと、飼い猫のブラッキーは他界しましたが、彼女の友人であるグレイスさんはいまも大通りに面したホノカア・トレイディングの店にいますし、他の猫たちは世代を重ね、元気にうろついています。グレイスさんは今もこの猫たちの世話を続けています。
レオの滞在中に何くれとなく世話をしたニック加藤さんはホノカアの店をたたみましたが、写真家として、文筆家としてヒロの町を拠点に活躍しています。家にいるときはたいてい美しい庭の手入れをしていますが、不在のときはきっと海でサーフィンをしているはずです。
レオがアルバイトを続けた当時のオーナーであるキーニーさんは他界しましたが、その娘のフェイトンさんがピープルズ・シアターを切り盛りしています。映写室には、博物的な価値のある、ボイラー駆動の巨大な映写機が眠っています。
町の入口部分にあたる、坂の上のテックス・ドライブインではハワイの伝統料理とおいしいマラサダが食べられますし、町の中心にあるピザ屋のカフェ・イル・モンドも賑わっています。
この町の時間の流れは遅く、時を経るにしたがって古さが際立つような気がします。ハワイ島を訪れたなら一度は寄り道をしてみることを勧めます。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
最新の記事
- 特集2024年11月21日コキオ・ケオ・ケオ
- 特集2024年10月17日ラハイナの復興
- 特集2024年9月19日変貌をつづけるハレマウマウ
- 特集2024年8月15日ハワイ諸島の誕生と神々1