番(つがい)で行動する

番(つがい)で行動する

ネネ(ハワイガン)はハワイの州鳥です。カナダガンがその先祖と言われており、ハワイ諸島に定住し進化を遂げました。ハワイ名のネネ(Nēnē)は、「ネーネー」という鳴き声が由来です。雁の仲間ですが、岩稜地帯に生息するため、水掻きを半分ほど失っています。また、渡り鳥としての性質もありません。また、産卵時期や産卵場所、交尾場所など、他の雁とは異なる性質が数多く確認されています。しかし失われていない性質もあります。水鳥なので泳ぐことができますし、雁の特徴であるV字編隊での飛翔も行います。

畑を荒らすネズミを退治するため、かつてハワイにマングース(Indian Mungoose)が導入されました。ところがネズミは夜に活動するのに対し、マングースは昼行性です。このため、マングースはつねに餌が不足でした。羽根が少し小型になり、移動以外にはあまり飛ばないネネは、洞窟や地面に直接卵を生みます。マングースにとっては好都合でした。手間のかかる親鳥ではなく、卵を狙いうちしたのです。その結果、1940年代には個体数がわずか50羽と絶滅の危機に瀕しました。厳密に言うと、ネネは1951年に絶滅しました。幸いなことに個人が飼育していた約30羽が生き残ったいたため、これらを繁殖させて今日に至ります。

後退した水掻き

後退した水掻き

ネネはカウアイ島ではワイメア渓谷のコケエ周辺、ハワイ島ではマウナ・ロア山麓やキラウエア周辺、フアラライ山の山麓など、マウイ島ではハレアカラの周辺に生息します。今日では計画的に放鳥され、いずれの島でもネネの姿を見られるようになりました。共通しているのは高所であることです。マングースが侵入してこない高さを生活圏にさせた努力が実り、現在では2000羽とも3000羽とも言われるほど増えています。

しかし、よい話ばかりではありません。ネネは限られた数から人工的に繁殖させたため、種の多様化に対応していないのです。ある1羽が致命的な病に罹ると、他のネネも同じ病に罹る可能性が高いということです。もうひとつの問題は、野生状態で個体群を維持できるほどの幼鳥が誕生していないという事実です。野生に帰しても、子を産むことなく老衰して死ぬことを繰り返すのなら、人間が繁殖させて放鳥するという行為をいつまでもつづけなければなりません。この問題を解決するためには、生息環境をしっかり整えてやることが大切です。しかしマングースや野ブタ、野良猫、野犬などの駆除は簡単ではありませんし、ネネに適した森の復元も長い時間をかけなければならず、息の長い作業が必要とされています。

地面に卵を産んで育てる

地面に卵を産んで育てる

 

最近ではもうひとつ問題が生じています。マングースがいないとされたカウアイ島で繁殖しすぎ、生態系を荒らすまでになりつつあります。ネネ自体が保護鳥ですから、これを駆除するわけにはいきません。また、この島にもマングースが出没するようになりました。さまざまな要因が重なり合う状況で、これまでとは異なる対応が迫られています。

動物知識

学名:Branta sandvicensis
ハワイ名:Nēnē
英名:Hawaiian goose
和名:ハワイガン
特徴:
カナダガンがその先祖と言われており、ハワイ諸島に定住した進化を遂げた。体長は55~75cm、体重は2キロ前後。オスとメスの違いはほとんどなく、成鳥になるとつがいで行動する。一度に5個から8個の卵を産み、30日ほどで孵化する。この間、オスが卵の世話をする。

ネネの飛翔

ネネの飛翔

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。