マウイ島の西マウイ南部に位置するオロワルは人口わずか100人ほどの小さな集落ですが、伝統社会時代は極めて重要な土地でした。ここはかつてマウイ島の支配者であったケカウリケの娘であるカロラが統治していました。ちなみに彼女の孫娘であるケオプオラニはカメハメハ1世の妻です。当時のオロワルは現在より多くの人口を擁していました。

オロワルはサトウキビ農場が出現するまで農耕地帯でした。カメハメハが諸島を統一していた1790年に起きたマウイ軍の大虐殺と、それに続くビャクダンの伐採で強制労働が行われたため、オロワルは次第に衰退していきました。今日、この町はサーファーたちが訪れることと美しいサンゴ礁が広がることで知られます。

オロワルと海岸地帯

オロワルと海岸地帯

 

プウ・ホヌア

オロワルは宗教的にはプウ・ホヌアとして知られていました。プウ・ホヌアとは「避難の場所」という意味です。カプ(ルール)を破った者、家族や王族に罪を犯した者、敵から逃げて来た者などが、この地に逃げ込めたときは、一定期間の禊(みそ)ぎの後にすべての罪が許されました。この聖域を侵すことは、たとえアリイ(首長)であっても許されませんでした。ハワイに限らず、太平洋の島々では、プウ・ホヌアの存在は、平和を維持するために欠かせぬものでした。

 

虐殺と収束

カメハメハが諸島を統一する背景となった歴史的事件があります。1780年、サイモン・メトカーフ船長は、息子のトーマスが指揮する大型船エレノーラ号でハワイ島に到着しました。このとき彼らは歓迎のために乗船したアリイ(首長)のカメエイアモクに会いました。しかしアリイの礼儀を失した態度に腹を立てたメトカーフは、カメエイアモクを鞭打ちにしました。その結果、現地の人々とエレノーラ号との間に深刻な対立が起きました。その後、エレノーラ号は交易と補給のためにマウイ島へ向かいました。ある夜のこと、彼らの小舟が盗まれ、夜警が殺されました。メトカーフ船長は激怒し、近くの集落に大砲を撃ち込みました。そして砲撃後に島へ上陸すると、数名の住民を捕らえて首謀者を見つけようとしました。メトカーフの訊問に対し、住民たちはオロワル村の人たちがボートを奪ったと告げました。

カメエイアモク(左)

カメエイアモク(左)

 

そこでメトカーフはオロワルに向かいましたが、盗まれた船はすでに解体されていました。彼らは船に使われた釘を入手しようとしたのです。メトカーフはオロワルの人々を船に招き、交易を申し出ました。その後に何艘ものカヌーが彼の船に近づいてきたのを狙い、メトカーフは密かに準備していた大砲を発砲し、洋上のハワイ人100人近くを殺したほか、多くの住民を負傷させました。

それから1ヶ月半ほどのち、フェア・アメリカン号がカメエイアモクが待つハワイ島に到着しました。5名の乗組員のうち、トーマス・メトカーフを含む4人が殺されました。このときに死を免れたのはアイザック・デイビスだけでした。ちなみにデイビスは当時カメハメハ1世の軍事顧問をしていました。カメハメハがこの事件を知ったのは、別の船に乗っていたジョン・ヤング(彼もカメハメハの顧問です)がフェア・アメリカン事件について調査をするため、エレノーラ号でハワイ島に赴いた際に、カメハメハの部下に捕らえられた時でした。彼らも殺される運命にありましたが、カメハメハは彼らを守り、以後2人はカメハメハ大王に忠誠を誓うことになりました。カメハメハが鉄砲や大砲を必要なだけ手に入れることができたのは、彼ら2人の活躍に負っています。このとき、トーマスの父であるサイモンは、息子が殺されたことを知らずに島を後にしました。

アイザック・デイビス

アイザック・デイビス

 

 

ペトログリフと伝統文化の復興

今日、オロワル地域はオロワル文化保護区(OCR)に指定されています。本格的な活動は21世紀に入ってからです。ここにはかつてのビャクダンの森がありましたが、前述したようにハワイ王国が輸出用木材として皆伐してしまっため、その復元作業が行われています。その他には、タロイモ水田や養魚池の復元や、大規模に残されているペトログリフ(岩刻画)の保存と啓蒙を行っています。またかつてはプウ・ホヌアであったため、その復元にも取り組んでいます。

オロワル・バレーからオロワル・ストリームの河口までの約0.3平方キロメートル。この川の源流はイアオ渓谷に繋がっています。また、ペトログリフの北に隣接してOCRのカルチャーセンターがあります。オロワル集落の北には西マウイの最高峰であるプウ・ククイ(1,358m)があります。この山の尾根は北のリーハウ山と南のリーハウ・ウラ山の間にあり、オロワル渓谷とイアオ渓谷とは、プウ・ククイの山頂が地滑りで埋まるまで山道で結ばれていました。

岩に刻まれたペトログリフ

岩に刻まれたペトログリフ

 

オロワル・タウン構想

現在、オロワルの人口は100名ほどですが、町を拡張する計画があります。すべてが完成するとラハイナの町に匹敵する規模となる予定ですが、2023年現在、青写真から進展はありません。また、西海岸の壊滅的な災害もあり、この計画が日の目を見ることがあったとしてもかなり先のこととなりそうです。

 

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。