パイナップルの発見
パイナップルを初めてヨーロッパに紹介したのはコロンブスの一行です。新大陸を発見したコロンブスの次の航海は1493年に行われましたが、このときクルーのひとりであったミシェル・ド・クーナオが西インド諸島のグアドループ島でパイナップルを発見したと記録しています。新発見の果実はヨーロッパでもてはやされ、とくに貴族の間では競うように栽培されたということです。
ハワイでは1813年に、スペイン人のドン・マリンという人物が初めて栽培をしたとされます。 このときの品種はカイルアと名づけられ、当時はサンフランシスコに輸送されました。1886年になるとジャマイカから葉のトゲがないスムース・カイエンという品種が導入され、一気に生産性が上がりました。1892年になるとキッドウェルという人物がオアフ島でパイナップル生産を開始し、その後にドールがホノルルに工場をつくりました。やがて大量生産が始まり、缶詰加工が行われるようになると一大産業として発展しました。ハワイは世界一のパイナップル産地となったのです。
日本人移民とパイナップル畑
1885年から1908年にかけてサトウキビ畑で過酷な労働に耐えた日本人移民の多くは、当地での契約が終了すると、労働条件が良い上に自由度が高く、昇進の機会もあるパイナップル産業に従事するようになりました。1908年にはパイナップル農地の8%近くが、日系人によって管理されました。1913年になるとオアフ島に多くの日系人生産者が集まり、220人の発起人によってオアフ島パイナップル生産者協同組合が結成されました。このようにしてパイナップル農業は隆盛を極めましたが、やがて諸外国との価格競争に苦しみ、次第に生産規模を縮小していきました。その結果、多くの日系人経営者は畑を手放しはじめました。
オアフ島ではキャッスル&クック社が前身のドール・フード・カンパニーが生き残りました。マウイ島ではマウイ・パイナップル社が、日本人移民の土地を買い取って経営を続けましたが、現在は大幅な縮小を余儀なくされています。カウアイ島でも1906年に最初のパイナップル会社が設立され、その後、日系人による会社が数社設立されました。そのうち、最後まで経営を続けたのは1937年に設立され、1960年代まで経営が続いたハワイアン・フルーツ・パッカーズ(HFP)です。この会社もその後にストークレイ・バン・キャンプ社に買収され、日本人移民の関わる会社は姿を消しました。ラナイ島もかつては広大なパイナップル畑が広がっていましたが、現在は荒野が広がるのみです。
パイナップルの語源
パイナップルはパイナップル科アナナス属の多年草です。ブラジル原産で、アナナスという学名は、ナヌスという現地名に由来します。また、「ア」はポルトガル語で「果実」、「ナナ」は「優れている」という意味だとの説もあります。一方、パイナップルということばは、スペイン語の「ピナ」が英語化し、これに果実を表す「アップル」が付いたものだと言われます。ハワイ語ではハラ・カヒキと呼ばれますが、「カヒキ」は「外来の」、「ハラ」は「タコノキ」を意味します。タコノキの実がパイナップルによく似ていることから誤用されたという説があります。
品種改良
パイナップルの葉はきわめて強靱で、かつては吹き矢の矢じりに使われたほどです。加えて鋭いトゲがあり、これが効率の良い栽培を困難にしていました。しかし先に書いたように、1819年にトゲのないカイエン種というパイナップルが発見され、栽培効率は飛躍的に向上しました。今日ではカイエン種が全流通の90%近くを占めます。その他にも食用に改良された品種が100以上あります。
ハワイのプランテーション・パイナップルはほとんどがカイエン種ですが、17世紀から栽培されている甘みの強いクイーン種や、甘く酸味も強いレッド・スパニッシュ種などが知られます。また、少量ながら、酸味が少なく芯のないコナ・シュガーローフという品種や、ヒロ・シュガーローフという品種もあります。ちなみに、ワヒアヴァのドール・プランテーションには、世界の主なパイナップルが植えられています。
特徴と栽培方法
パイナップルは、葉の長さが60cm~1m、幅が6~8cmほどあり、基部が重なりあって器のような構造をしています。ここに水や腐植した葉などをたくわえ、水分と栄養の補給を行うことができるので、乾燥にもある程度持ちこたえることができます。ちなみに、果実の上にできる葉のように見える部分は芽で、これを切り取って砂地に挿せば、新しい株となって生長します。
最後においしいパイナップルの見分け方をお伝えします。大きく、軸が太く、下膨れのものを選びます。底を押して軟らかければ食べ頃ですが、まだ固い場合は冷蔵庫に入れて2日ほど寝かせると酸味が減ります。ちなみにパイナップルは、植物学的には果物ではなく野菜です。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
最新の記事
- 特集2024年11月21日コキオ・ケオ・ケオ
- 特集2024年10月17日ラハイナの復興
- 特集2024年9月19日変貌をつづけるハレマウマウ
- 特集2024年8月15日ハワイ諸島の誕生と神々1