ポリネシアの文化と入れ墨

ポリネシア諸島には数世紀にわたって入れ墨(Kākau, kākau kaha, uhi)が深く文化に関わってきました。その芸術的な役割や技術、さらにはデザイン的なモチーフは2000 年以上前から存在したと言われます。ポリネシア地域における入れ墨の歴史はサモアに始まり、アオテアロア(ニュージーランド)に至るまであらゆる島にあります。タヒチをはじめとするソシエテ諸島やツアモツ諸島、オーストラル諸島、ガンビア諸島とマルケサス諸島では、入れ墨のデザインから、その人物の起源を遡ることが可能です。ラパヌイ(イースター島)やトンガでも入れ墨文化がありましたが、19 世紀にキリスト教の宣教師が入植すると、この伝統は消滅してしまいました。

入れ墨の英語表現であるタトゥーはタヒチ語のタタウ(Tatau, または Arioi)です。ラパヌイ(イースター島)ではター(Ta)、トンガではタタタウ(Tatatau)、アオテアロアやサモアではトゥフガ(tufuga)と呼ばれました。タトゥーの語源はタヒチ(ソシエテ諸島)であっても、タトゥーの基本はマルケサス諸島のデザインだとされます。黒を基調にさまざまなデザインが発展しました。

タヒチやハワイでは、マナと呼ばれるスピリチュアルな力は、それをあまり持たない人にとっては危険なほど強いものだと信じられたため、タプ(カプ)を行いました。タブーの語源ですが、ここでは「隔離」という意味合いです。しかし、関係する者すべてを隔離していたのでは暮らしが立ちゆかなくなるため、力を制限するものとしてタパ(カパ)を身につけたとされます。このとき、人々の関係を保つ役割としてタトゥーも用いられました。

高貴な女性に入れ墨を施すカフナ

高貴な女性に入れ墨を施すカフナ

 

共通の要素

サモアやアオテアロア、ハワイの入れ墨には、デザイン、染料、手法などにおいて多くの共有要素があります。 また、入れ墨を執り行うカフナ(熟練者)はアリイ(首長)に匹敵する社会的な地位がありました。ハワイを含むポリネシアにおいて、入れ墨のカフナ(一般的には男性が執り行った)は、デザインや配置などを決めるにあたり、高度な技術と知識を駆使しました。カフナはデザインの取り決めだけでなく、それをいつ、だれが、どのような状態(状況)において行うかについての権限を持っていました。入れ墨の儀式を行う際には、断食をして身を浄めるなど、さまざまなカプ(規則)も存在したのです。

カフナは入れ墨の儀式が滞り行われると、その程度に応じて美しいデザインのマット(サモア)や棍棒などの武器(アオテアロア)を与えられました。カフナは入れ墨の儀式でつねに新しい工夫を施したとされます。入れ墨は高い地位にある人物に対して行われるからです。入れ墨の儀式を行うカフナは、他のカフナと同じく、高潔な精神を保つという理由で家族を持ちませんでした。(※例外はあります。)

額に入れ墨を入れることができるのは大首長(Ali'i nui)か、その妻(hikoni)のみとされました。ほぼ同じ場所のように見えますが、瞼への入れ墨 (maka uhi) は敗北した敵への屈辱のしるしとされました。

キャプテン・クックの随行画家が描いたハワイの男性

キャプテン・クックの随行画家が描いたハワイの男性

 

入れ墨の形状

入れ墨は、点(kiko)や小さなスポット(kikiko)、対になった黒一色(pā'ele)、単独の黒一色(pāelekūlani)、長い直線(alaniho, mōlī, mōlina)などで構成されます。線や直線的な面を基本とした幾何学的なモチーフは、ポリネシア全域でほぼ共通しています。直線を含む幾何学的なデザインは、三角形、円形、その他の多角形などから成り立ちます。アオテアロアのマオリを除くポリネシアの入れ墨では、それを執り行う際のプロセスは基本的に同じです。線や幾何学的な形状のほかには、ペトログリフ(男性や動物、鳥など)などがあります。サモアでは船、コウモリなどが描かれました。

(1)皮膚に簡単なデザインを描く。素材としては木炭や土などが用いられました。
(2)実際の入れ墨では、鳥の骨、亀の殻、竹、サメの歯などで作られた針を用いました。
(3)入れ墨作業では最初に皮膚に切れ目を入れ、植物素材の染料を先端に付け、針(mōlī)
で染料を入れました。針を用いた入れ墨の作業は「molimolī」と呼ばれます。
(4)染料(pa'u)の素材には、コー(サトウキビ)の果汁やククイの実(仁)を燃やした
ときに出る煤、ニウ(ココナッツ)のミルク、水を混ぜ合わせたものを用いました。
(5)ハワイでは、イリエエの花汁を混ぜ合わせることで、染料の色を濃くしました。
(6)入れ墨を終えると、患部を海水ですすいで終了です。

顔面全体に入れ墨を施した男性

顔面全体に入れ墨を施した男性

 

 

次回はハワイの入れ墨文化についてお話しします。

 

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。