ホノルル美術館から茅ヶ崎美術館に移動したヴィンテージキルト展
神奈川県の茅ヶ崎市政施行70周年とホノルル市・郡姉妹締結3周年を記念し、2017年9月10日から11月5日の間、茅ヶ崎市美術館において「ホノルル美術館ハワイアンキルト展Across The Ocean」が開催されました。ホノルル美術館でも展示されたことないヴィンテージ・ハワイアンキルトが20点展示され、とても貴重なキルト展になりました。今日はその中から私の好きなキルトを数点ご紹介しましょう。
期間限定ということもあり、ホノルル美術館でも展示されていないヴィンテージキルトが20点も展示されているというのは、キルターにとって夢のような展示会です。その20点の中には4枚、ホノルル美術館でも過去に展示されたことのないキルトが展示されていました。ヴィンテージ・ハワイアンキルトは、ハワイの博物館でも数点しか展示されておらず、よく日本や本土の方からどこに行けばハワイアンキルトを見ることができるか? という質問を受けますが、残念ながらハワイにおいても、ヴィンテージキルトを実際に見るというのは大変貴重なことになっています。
茅ヶ崎美術館は閑静な住宅街の中に佇み、昔はどなたかの別荘だったような庭を歩いて行くと、モダンな建物の美術館にたどり着きます。
静かな美術館で、ゆっくりと20枚のヴィンテージキルトをエンジョイするには丸1日時間をかけてもいいかと思います。私たちキルターは端から端まで舐めるようにキルトを眺めます。そこには伝統と歴史が刻み込まれています。
「ナ・カラウヌ・メ・ナ・カヒリ(王冠とカヒリ)」はホノルル美術館のシグネチャーキルトとも言えます。数年前のホノルルでのキルト展などで何回が実物を見ていますが、いつ見ても素敵なキルトです。このキルトの裏には1886と文字が入っていて、1882年のイオラニ宮殿が建てられた時期のキルトということは130年くらい前の本当のヴィンテージキルトということになります。状態も良く、ハワイから遠い茅ヶ崎の地での再会は想像を超えるものでした。
前回のキルトパラダイスでご紹介した「ピカ・プア・オ・ハレ・アリイ(王宮の花瓶)」ですが、(https://www.pacificresorts.co.jp/kawaraban/quilt/iolani-palace-evening-tour/)このキルト展での私のお気に入りとなりました。
このキルトの名前のように、イオラニ宮殿のドアのガラスにエッチングされた花瓶がもとのデザインです。1920年代に作られたキルトですが、製作者は不明。ハワイアンキルトが伝統工芸と定着してからしばらくしての作品ということがわかります。なぜならモチーフの周りにエコーイングキルトと言われる、輪取るキルトが幾重にも施されているからです。こちらは所謂、シンメトリーのモチーフ、エコーイングキルトが特徴的な現在のハワイアンキルトの形を表しています。このキルトはホノルル美術館では一度も展示されたことがないキルトなので感激しました。
次のレッドワーク・キルトは作者不明、作られたと考えられるのは1880年から1925年頃と言われています。レッドワーク、所謂、白地に赤の糸で刺繍されたキルトをさしますが、まさに1880年から1925年の間くらいに、アメリカでとても流行ったレッドワークのキルトです。当時、赤はターキーレッドと言われ、インドやトルコなどから、18世紀から19世紀にアカネの根で染めた赤のコットン生地がヨーロッパに伝わったそうです。こちらのデザインはリリア(ゆり)とバラ(ロケラニローズ)ですが、ハワイの女性たちに人気のあったデザインでした。キルティングラインは、ハワイアンキルトの特徴的なエコーイングキルトではなく、格子状の幾何学模様が施されています。現在のハワイアンキルトがまだ確定される前のキルトであることがわかります。
デザインもキルティングの格子状の模様の中にあるのではなく、すでにシンメトリーの大きなモチーフのように刺繍されているのが、ハワイ独自の伝統を表しています。
今でもレッドワーク・キルトはキルターにとても人気があります。こちらのキルトもホノルル美術館では展示されたことのない貴重なキルトの1枚です。
生命の木というキルトですが、1887年頃に作られたものだと言われています。作者は不明、とても珍しいもので、イギリス人がインドから輸入したウォールハンギングやベッドカバーとして使われた手描き更紗に似ているそうです。通常の1/4や1/8のシンメトリーのデザインではなく、1/2のデザインで作られています。またボーダーはとても特徴的でブランケット・ステッチのようにも見えます。とてもデザインは宗教的な要素があり、白地に赤のアップリケがされたキルトは、末日聖徒イエスキリスト教会の夫人救済協会のメンバーたちにより作られ、宣教師エノクさんとエステル・M・ファー夫人らのハワイ滞在最後のプレゼントではないかと言われています。宣教師ファーはオアフ島ライエにおいて、サンドウィッチ島宣教師会の会長を1885年から1887年まで務めた人でした。
多くのヴィンテージキルトはこのように、ハワイに滞在していたアメリカ本土の人たちへのプレゼントとして作られ、本土に持ち帰られたものが多いですが、後に、どのような経路なのか、ハワイに再び帰って来たものも少なくはありません。そのため、現在存在するヴィンテージキルトは貴重なものだと言えます。
最後にご紹介するのはやはり「クウ・ハエ・アロハ(わがいとしの旗)」です。作られたのは19世紀末から20世紀初期で、作者は不明です。1893年にはハワイ王国が崩壊し、国民は途方に暮れてしまう事態が起こっていました。政治的にも不安定な時期に、ハワイの国民は自分たちのアイデンティティーを保つため、また王国復活を夢見て、ハワイ王国の旗を入れたフラッグキルトを多く作ったと言われています。
特にこのキルトでは、ハワイの旗2本を交差させたことより、王国最後のリリウオカラニ女王への愛国心と忠誠心を表していると言われます。
中心にはカラカウア王朝の、コート・オブ・アームと言うエンブレムのデザインが使われています。
当時アメリカやヨーロッパでとても流行っていたクレイジーキルトに施された刺繍のテクニックが、旗の部分とエンブレムの部分のアップリケのエッジに施されています。ハワイのチキンフットという独自の刺繍のステッチが細かく施されています。
キルティングは輪取りのエコーキルトでも、格子状のキルトでもなく、「ソーダクラッカー」と言われるキルティングがされています。このソーダクラッカーは乾パンという意であり、当時、長期の航海の食料として使われ、クジラ船により、1800年代にハワイに紹介されました。まさにソーダクラッカーの模様ですね。
ここでは5枚のご紹介でしたが、ハワイアンキルトと言っても、とても多くの種類のキルトが存在します。1枚1枚に歴史があり物語があります。その歴史の一瞬に出会うことができたことが本当に素晴らしいことであり、このキルト展の大きな意味が存在すると思います。
このキルト展の開催にあたり、多くの方々のご協力があったと思います。いつまでもハワイと日本が素敵な友好関係であってほしいです。
素敵なキルトの展示、本当にありがとうございました。いつか第2弾をやっていただきたいと思います。
*本文の解説は茅ヶ崎美術館で開催されたキルト展の展覧会図録より、解説を使わせていただいた部分があります。
*写真はすべて私が撮ったものですが、もともとのキルトはホノルル美術館のコレクションです。
All Quilt collections are from Honolulu Museum of Arts.
By アン
ご協力:茅ヶ崎美術館、ホノルル美術館
茅ヶ崎美術館
神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45
http://www.chigasaki-museum.jp
☆2018年3月10日&11日、ハワイコンベンションセンターにてハワイアンキルト展を開催します。ホノルルフェスティバルの一環で、2年に1回の恒例ハワイアンキルト展です。ぜひいらしてください!
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筆者プロフィール
- アーミッシュキルトの盛んなアメリカ・オハイオ州の高校に留学中にアメリカン・パッチワークを習得。その後ハワイに移住し、マウイ島のハナ・マウイ・ホテルで出会ったハワイアンキルトのベッドカバーに一目惚れをし、ハワイアンキルトを始める。2001年9月11日、ニューヨークで起きた同時多発テロ事件の犠牲者とその家族への追悼キルト、『千羽鶴 フレンドシップキルト』を全国のキルターとともに完成させ、2009年9月、9.11メモリアルに寄贈。2010年スパリゾートハワイアンズ(福島県いわき市)にてキルト展を開催。2011年7月、ハワイで毎年開催される「キルトハワイ」において、オリジナルデザインの「マノアの森」キルトがグランプリ受賞。2012年7月、電子本「キルトストーリー」を発売。2012年9月、スパリゾートハワイアンズへ、フラガール・フレンドシップキルトを寄贈。2013年11月より、イオラニ宮殿の日本語ドーセントのボランティアを開始。2021年7月には誠文堂新光社より「ハワイアンキルト パターンとステッチの魅力」の増補改訂版を発売。ハワイ、日本での展示会やレッスンなど、伝統的なハワイアンキルトを広げるため、日々奔走中。ハワイ在住34年目。
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