アロハカワラ版が23年の歳月を経て使命を終えることになりました。四半世紀もの永い間、カワラ版を続けられたことを、とても誇りに思っています。開始当初はひんぱんにハワイを訪れていたこともあり、書籍やウエブサイトではなかなか得ることのできない深い情報を提供することを心がけていました。第1回の特集はダイヤモンドヘッドでしたが、単なるコースガイドではなく、ハワイ諸島が火山の島であること、ホノルルには多くの噴火口が残されていることなど、背景となる情報を伝えることに重きを置いてきました。旅をするにあたり、提供する情報を足場として、より深い体験をしていただくことを主眼としていました。

第1回の特集

第1回の特集

2002年8月の本サイト誕生時、今日、築地に拠点を持つパシフィック・リゾート社はまだ銀座にあり、何度もおじゃまをして打合せをさせていただきました。スタッフ一同が、これまでにないハワイの魅力を伝えたいという志を抱き、古代史、王朝史、近現代史、移民史などの歴史をはじめ、神話、遺跡、地理、火山、海と川、農耕、動植物、風景、天空に至るまで、ハワイのさまざまな世界を紹介してきました。発行回数は323回に及びます。

海に落ちる溶岩

海に落ちる溶岩

当時、海外渡航者数は増加の一途を辿り、とくにハワイはその頂点を極めていました。団体旅行の時代は終わりを告げつつあり、個人旅行が脚光を浴び始めた時代です。画一的な旅では満足できなくなった層が増えているなか、カワラ版は「どのような旅が可能なのかを伝える道標としての役割」を担ってきたと言えます。やがてワイキキにとどまらず島内各地へのバス旅などが人気を得、ほどなくネイバーアイランズ(その他の島々)への個人旅行も増えていきました。

モロカイ・アウトドアーズ

モロカイ・アウトドアーズ

そのガイドラインとなるような本も次々に出版されましたが、それ以上の勢いでインターネットによる情報提供が増大し、さらには Facebook や Instagram などの SNS の広がりがありました。アロハカワラ版はその頃からより専門的な情報を提供するようになりました。

篠遠喜彦博士

篠遠喜彦博士

これまでオアフ島とカウアイ島は現地からの声を、マウイ島、ハワイ島についてはそのつど特集を組んでさまざま情報を提供してきました。さらにはモロカイ島、ラナイ島、カホオラヴェ島についても、一般にはあまり知られていない情報を提供することができました。今では簡単に立ち入ることのできないカホオラヴェ島でのボランティア活動はその苦労とともに鮮明に思い出します。

強風のなかでの土嚢作り(カホオラヴェ島)

強風のなかでの土嚢作り(カホオラヴェ島)

ハワイの四半世紀の間には、新しい施設や道路が誕生したり、大きなイベントが催されたりしました。歴史上の新しい発見があったり、動植物の分布に変化が生じたり、気候温暖化による海水面の変化やハリケーンの影響、キラウエア周辺での度重なる噴火活動やラハイナの深刻な災害などもありました。今日のハワイは明るい話も暗い話も前向きに受けとめ、未来へと進み続けています。今後も不動の地位を変えることなく、ハワイと日本は深く繋がり続けていくことでしょう。

ホノコーハウ滝(西マウイ)

ホノコーハウ滝(西マウイ)

これまでの記事には、ハワイガラスの絶滅危機やハワイミツスイの生息数減少、ネーネー(ハワイガン)の生息数の増加、絶滅したと思われたロイ(タロイモ水田)やロコイア(養魚池)の復活や長距離航海カヌーの復元など、伝統文化の復興に関する話題をお伝えできたのはいまも懐かしく思い出します。

タロイモ水田での害虫駆除(カウアイ島)

タロイモ水田での害虫駆除(カウアイ島)

人との出会いも財産となりました。カウアイ郡やハワイ郡の知事(郡長)をはじめ、スポーツ選手、先住ハワイ人の血を引く人たち、天文台を巡る建設者と反対組織両方の話、各島でガイドをされているみなさんや店を経営するオーナーのみなさんからの貴重な話、そして国立公園のレンジャーや博物館、美術館、動植物園のスタッフの方たちにはとくにお世話になりました。

カネミツベーカリー内のジャム塗り作業(モロカイ島)

カネミツベーカリー内のジャム塗り作業(モロカイ島)

そのつどに気づかされるのは、決して大きな仕事ではなくても、生涯をかけて地道に地域の問題に取り組む人たちの熱意です。カウアイ島からハワイ島まで、そのような人たちを目にして学んだことは数多くあります。そのようなあれこれを咀嚼し、わずかながらではありますが、カワラ版の特集に活かしてきました。

ヘエイア・フィッシュポンド(オアフ島)

ヘエイア・フィッシュポンド(オアフ島)

忘れてならないのは、ともにアロハカワラ版の記事を書き続けてきた仲間たちの存在です。そのつど読ませていただき、自分の知らない世界の扉を開けてもらいました。当たり前のことですが、だれでも最初から多くの情報を持ち合わせているわけではありません。自分自身もアロハカワラ版への執筆を通じて成長を続けることができました。かしこまってお伝えしたことはありませんが、カワラ版の最終回にあたり、執筆のみなさんに改めてお礼を申し上げます。

神々の庭園(ラナイ島)

神々の庭園(ラナイ島)

そして最後に、パシフィックリゾート社で直接間接に対応してくださった氏原さん、小塚さん、児玉さん、熊谷さん、その他大勢のみなさんの力添えに感謝いたします。読者のみなさんとは、またいつかハワイのどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

ハワイに到着する旅客機(ホノルル)

ハワイに到着する旅客機(ホノルル)

*

近藤純夫
モロカイ島カウナカカイの浜辺より

筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。