ハワイではコーヒー産業が盛んで、多くの島にコーヒー農園があります。なかでもハワイ島のコナ地区は最古の歴史を誇り、最多の農園が経営を続けています。いまや世界中に名の知れたコナ・コーヒーですが、毎年秋にコナ・コーヒー・カルチュラル・フェスティバル(Kona Coffee Cultural Festival)が開催され、さまざまな催し物とともに、各種のコーヒー・ランクを発表しています。
ハワイ最初のコーヒー(コーヒーノキ)は、1813 年頃にドン・マリンによって持ち込まれました。(*彼はこの他にも多くの果樹をハワイに持ち込みました。)このコーヒーはホノルルのマキキ地区に移植されましたが、期待したようには育ちませんでした。
1828年頃、宣教師のサミュエル・ラグルズがこの木の一部をハワイ島のカイルア・コナに移植しました。それがハワイに今も残るコーヒーノキの原木です。ケアラケクアにあるグリーンウェル・コーヒー農園で実際に見ることができます。
コーヒーノキは寒暖の差があり、毎日適度な時間に適度な雨があることで上質な実をつけることができます。こうした環境に適しているのが、標高300~800メートルのマウナ・ロア西麓にあります。ここでは毎日夕方に短時間の降雨もあります。カイルア・コナの南部に続くこの土地を、現地ではコーヒーベルト地帯と呼んでいます。
コナでコーヒーノキが定着し、実を収穫しはじめたのは、さらに12年後の1840年のことです。最初はカイルア・コナ地区でしたが、後にケアウホウやケアラケクア地区へと農地は広がりました。コナにおけるコーヒーの収穫はすべて人の手(手摘み)で行われます。(*たとえばカウアイ島のカウアイ・コーヒーのような大規模農園では機械による収穫作業が行われます。)
1800年代の半ばから後期にかけ、白人たちは土地を入手して農園を切り拓き、そこにハワイの人たちや移民労働者を雇って仕事をさせました。ほどなく、日本人移民もサトウキビ農園から移り住んで働きました。19世紀末のことです。コーヒー農園の数は増え、収穫は順調に進みましたが、やがて病害などが起き、次第に経営は厳しいものになっていきました。
1899 年にハワイを含む世界のコーヒー市場の価格崩壊が始まると、コナの農園は持ちこたえることができず、大規模な農園を分割し、それを主に日本人移民が購入して家族経営のコーヒー農園となっていきました。1ヘクタールから2ヘクタールほどの土地です。他にも各国の移民や、引き続き白人が運営する農園もありましたが、1910年頃には日本人移民が運営する農園がほとんどとなりました。
その後、さらに百年ほどの時が流れ、今日の経営者は初期の開拓時から5代目となる農園もあります。現在、コナと周辺地区にはコーヒー農園が約650あります。ハワイ島にはこの他にカウ地区で生産されるカウ・コーヒーなどがありますが、島の全生産量の95%ほどはコナで栽培されるコーヒーで、農地の総敷地は約14平方キロメートルあります。の栽培には約 3,500 エーカーの土地が利用されており、年間約1700トンを生産しています。
コナ・コーヒー・カルチュラル・フェスティバルは、多くのコーヒー農園が参加し、1970年に開催されました。コナ地区で続けられてきた約200年の農業文化を守り、これを継承促進することがイベントの目的です。フェスティバルは毎年11月に10 日間続けられ、コーヒー農園の歴史を紹介するとともに、コーヒー豆の早摘みコンテストやミス・コナ・コーヒーの選出、ランタン・パレードやマラソン大会など、50に及ぶイベントも用意されています。
しかし何といっても注目は、その年にもっともおいしいコーヒーを決めるコンテストでしょう。ハワイのみならず、世界中の注目を浴びています。2024年度受賞者は以下のとおりです。
シェフ部門(地元の農家やホテルのシェフなどによる審査)
1位:グリーンウェル
2位:カナラニ・オハナ
3位:マウカ・メドウズ(ドトール)
ピープルズ・チョイス部門(大会参加者によるブラインド・コンテスト)
1位:アロハ・スター コーヒー
2位:コナサンセット 、ツー・アウルズ・コーヒー
3位:ハラ・ツリー・コーヒー
総合ランキング(全ジャンルから選ばれる)
1位:フラ・ダディー・コナ・コーヒー
1位:ウルヴェヒ・コーヒー(同率首位)
3位:オハナ・マーティン農園
*2024年度の全ランクは以下のサイトで確認できます。
☕2024年度ランキング☕
第55回となる2025年の大会は、11月7日から16日までの開催予定です。
備考1
作家のマーク・トゥエインはコナ・コーヒーをこよなく愛し、米国本土の新聞などでしばしば紹介しました。コナ・コーヒーが注目された一因として彼の功績は小さくありません。今日、コナ・コーヒーは世界でもトップクラスのブランドとして定着しました。
備考2
コーヒーを購入するときは、同じグレードであれば安いほうがよく、豆の状態より挽いてあるパウダーの状態の方が楽だと思いがちですが、豆は時間の経過とともに味が劣化します。どれほど慎重に保管しても1週間ほどで味は落ちはじめます。味にこだわりがある場合は生豆を購入し、呑む前か、1週間分ほどを焙煎するのが理想です。焙煎まではさすがに、という場合は、豆の状態で購入し、真空パックしたものを冷蔵庫に入れて保管すると良いでしょう。そして呑む分だけを直前に挽いて使用します。この他にも、煎り具合(焙煎の深さ)や湯温、ケトルの形状、など、こだわればキリがないのがコーヒーと言えるでしょう。オーガニックコーヒーとグラスフェッドバターとを混ぜて健康飲料(ダイエット飲料)とするという飲み方もあります。
筆者プロフィール

- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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