ハワイ諸島は海底下のマグマによる火山活動によって誕生しました。主要ハワイ諸島でもっとも古いニイハウ島とカウアイ島から、現在も活発な火山活動を続けるハワイ島までどのような性質と特徴があるのでしょうか。
地球の構造とハワイ諸島
ハワイの島々は特定の場所に位置するように見えますが、つねに地球上を移動しつづけます。移動をつづけるだけでなく、寿命(島としての存在限界)もあります。諸島それぞれの年齢を見る前に、なぜハワイ諸島は移動を続けているかを見ていきましょう。
ハワイ諸島が地球上を移動しつづけるのは、地球の内部に巨大な熱源があるためです。その構造は下図のようになっています。赤い部分は平均値より高い熱の塊で、緑や青は平均値より低い熱の塊です。これらの熱の塊は地質用語でプルーム(プリューム)と呼びます。この巨大な塊は地核(コア)に近づくと熱せられて(平均値より)熱くなって上昇し、地殻(プレート)に近づくと(平均値より)冷たくなって下降します。熱い塊(ホットプルーム)は上昇し、冷たい塊(コールドプルーム)は下降するというのは、熱した水の移動と同じ原理です。
プレートの移動とハワイ諸島
北西ハワイ諸島の北西端にあるクレ環礁の、地質年代(その島が海上に姿を現してから経過した年数)はおよそ3300万年前です。しかし、その先に連なる天皇海山列(今は海のなかに沈んでいます)は、ほぼ北の、カムチャッカ半島に向かって延びています。このことから、プルームが上昇から下降、あるいは下降から上昇に転じると、それに引きずられるように地球表面のプレートも向きを変えることが判明しています。現在の主要ハワイ諸島(ニイハウ島からハワイ島まで)もまた、あと数千万年後にはその向きを変える可能性が高いと言えます。プルームは巨大な塊なので、表面の地殻(プレート)はプルームの移動に伴って引きつるように動きます。これをプレートの移動と呼びます。ハワイ諸島は太平洋プレート上にあり、地球48億年の歴史のなかの直近1万年を観察すると、おおよそ1年に6cmから9cm北西へ移動を続けています。
ハワイ諸島と日本列島
太平洋プレートはこのようにハワイ諸島を乗せて北西方向に移動を続けますが、その先には日本列島があります。プレートはここで移動を止められ、日本列島の下に潜りこむようにして地球内部へと還っていきます。
このときの潜り込みは滑らかに(するすると)行われるわけではなく、互いに重なり合った部分が引っかかるようにして押し合いをします。しかし後続のプレートが押し寄せ続けるため、やがて日本列島が乗るプレートが負け、このとき太平洋プレートは一気に深く潜りこみます。その際に起きるのが地震です。日本列島は太平洋プレートをはじめ、フィリピンプレートやユーラシアプレートなどに絶えず押し続けられる位置にあるため、地震が絶えません。
ハワイ諸島の誕生と移動
太平洋プレートに乗って移動しつづけるハワイ諸島について、詳しく見ていきましょう。プルームが上昇すると地殻(プレート)に近いマントルのなかにマグマ溜まり(ホットスポット)と呼ばれる塊ができることがあります。現在、ハワイ島南東部の地下数キロメートルのところにもホットスポットがあります。また、マグマ溜まりより深部には、より大きなマグマ溜まりがあります。ここに溜まったマグマは地殻の割れ目を通じて地表にマグマを押し上げます。
マグマは短期的(1千万年単位)にはほぼ同じ位置にありつづけますが、太平洋プレートは止まることなく、北西へと移動をつづけます。その速度は上述したように年間6cmから9cmとされます。かりに1年に10cmとすると、10年で1m、1万年で1kmとなります。
マグマが地上に出現したものは溶岩と呼ばれます。ちなみに流動性のあるマグマ(まだ熱い溶岩)も、冷え固まったマグマも英語、日本語ともに溶岩(lava)と呼ばれます。この溶岩が海底に積み重なって徐々に高さを増し、やがて洋上に顔を出すと島の誕生です。ハワイの島々はこのようにして誕生しました。
現在、ハワイ島のマウナ・ロアやキラウエアを中心に噴火がつづいていますが、この島が海上に姿を現したのは今から60万年ほど前とされます。同じ島のなかでも、北西ほど地質は古く、南東ほど新しいのは、プレートはつねに北西へ移動をつづけるためです。しかし、現在はハワイ島の真下にあるマグマも、やがてプレートとともにホットスポットから遠ざかり、地下のマグマと地上の島との通り道(パイプ)は切り離されます。
切り離された島は少しずつ風や波によって浸食され、次第に小さくなっていきます。その結果、4000m以上の高峰を抱くハワイ島もやがては、地質年代が600万年とされるカウアイ島のようにホットスポットから遠ざかり、小さな島となります。カウアイ島では溶岩の上に生育して積み重なった植物がつくり出す土壌によって緑豊かな土地となりました。
さらに小さくなると、ミッドウェーやクレ環礁のようなサンゴ環礁となります。ここまで浸食を受けると海底に消滅するのは時間の問題のように見えますが、実はここからしばらく(1千万年の単位で)環礁は存在し続けます。それは浅瀬に成長するサンゴがあるからです。島は次第に海面下深くに縮小されますが、つねにその頂にサンゴを作りつづけます。古いサンゴ環礁は膨大なサンゴが上に積み重なり、島を維持しつづけるのです。
島の消滅
しかしやがて島は消滅します。なぜなら北西に移動しつづけると海は次第に冷たくなり、サンゴが生育できる限界を超えてしまうからです。島に貼りついたサンゴも死に絶え、風雨や波に表面を削り取られて海面下に消えます。海面下に姿を消すことで島の一生は終わりを告げますが、海山としては存在しつづけます。それが今日、天皇海山列と呼ばれるものです。ちなみに、天皇海山列の名前は日本人が命名したわけではなく、アメリカの学者が日本の天皇を引用したものにすぎません。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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