シダはハワイの自然史を語るうえで欠かせない植物のひとつです。シダは葉が生長したもので、種子を作らず、胞子によって増えます。ハワイ諸島というと草花や樹木のイメージが強いでしょうが、ハワイ諸島にしかない固有のシダが数多くあり、暮らしのなかにも取り入れられました。今回はそれらのシダのなかから代表的なものを紹介します。

ハープウ

シダは一般に湿気の多いところを好みます。ハープウはハワイを代表するシダのひとつで、森のなかの比較的直射日光が当たらないところに生育します。ハープウは高さが最大5~7mほどまで生長し、基部の木化した部分(葉柄)にはデンプン質が含まれていて、人だけでなく先住民が連れてきたブタの好物でもあります。若い(実生の)茎部分からは帽子が作られたほか防腐剤としても用いられました。また、2枚目の写真のように葉柄の頂きには柔らかな繊維ができるので、これを枕やマットの詰め物として利用したり、編んでカゴにしたりしました。

ハワイ名:Hāpu‘u, Hāpu‘u pulu
学名:Cibotium glaucum, C. splendens タカワラビ科タカワラビ属(キボティウム属)
英名:Hawaiian Tree Fern, Male Tree Fern
和名:なし(タカワラビの近縁)
原産地:ハワイ諸島主要8島 / 固有植物
特徴:木化した葉柄の高さは1~2m、葉身の高さは1~5m。標高300m前後の低地から1700m までの乾燥した土地、あるいは湿り気のある森に生息します。キラウエア火山には、オヒアの木と共生する広大なハープウの森があります。

ハープウ

ハープウ

木部の頂にできるやわらかな繊維

木部の頂にできるやわらかな繊維

アマウ

アマウはハープウと似ていますが、葉は分岐せずに伸びます。 ハープウと同じく基部は木化しますが、食用には適しません。アマウはハープウと同じく比較的高地に見られます。若いときは赤い色をしていますが、生長するにつれて緑色に変化し、紅葉したあとに枯れます。アマウは一般的なシダと異なり、陽の当たるところを好みます。 アマウの葉はパラホロと呼ばれ、カパ(樹皮から作る不織布)の素材に使われたほか、木化した基部からは、赤い染料を取ってカパを染めました。ちなみにキラウエアのハレマウマウ・クレーターの名は「ama'uma'u の家(hale ama'uma'u)」に由来します。

ハワイ名:‘Ama‘u
学名:Sadleria cyatheoides シシガシラ科キアテオイデス属
英名:Rasp Fern
和名:ヘゴモドキ
原産地:ニイハウ島とカホオラヴェ島を除くハワイ諸島 / 固有植物
特徴:全高は3~4m。葉身は0.5~3.0m。比較的高地に見られる木性シダで、葉がV字状に開きます。

アマウ

アマウ

クプクプ

クプクプは生育環境によって変異が大きく、溶岩地帯のように陽射しをたっぷりあびるところでは直立して育ちますが、カウアイ島のシダの洞窟のように日陰のものは垂れ下がるように育ちます。ちなみにクプクプとはハワイ語ではシダの総称ですが、一般にはタマシダを指します。英名を sword fern と呼ばれるのは、刀のように細長いことに由来します。クプクプは高地で生長しますが、オヒアやオヘロとともに育つことが多く、キラウエアやマウナ・ロアでは 熔岩が流れたあとの黒々とした土地にいち早く出現します。

ハワイ名:Kupukupu, ‘Ōkupukupu, Pāmoho
学名:Nephrolepis cordifolia
英名:Sword Fern
和名:タマシダ
原産地:日本〜太平洋の熱帯地域〜ニュージーランド / 在来植物
特徴:(葉身50-80cm)標高450〜1500メートルに分布する単葉のシダで、葉が末広がりにならないのが特徴。熔岩の大地に最初に根づくのはオヒアとオヘロ、それにクプクプやアヘです。パーモホと呼ばれるクプクプ Nephrolepis exaltata は別種です。ハワイ人は葉柄が一枚のシダをクプクプと呼ぶこともありました。ちなみに kupu はハワイ語で「芽」を意味します。

クプクプ

クプクプ

アエ

溶岩が流れたあと、アマウやクプクプなどとともに最初に出現するシダのひとつです。クプクプに似ていますが、葉を上から見るとV字状になること、また全高がクプクプよりも低いことなどで区別できます。

ハワイ名:ʻAe, ʻAe lau nui
学名:Polypodium pellucidum
英名:Ae fern
和名:なし
原産地:主要ハワイ諸島 / 固有植物
特徴:シダ、葉身10-55cm
クプクプを小型化したような外観で、日差しの強い溶岩地帯など生育します。シダ類に特徴的な胞子嚢はあまり目立ちません。標高150~2000mの湿地に生育します。

アエ

アエ

ウルヘ

葉を2つに分岐しながら生長する点が特徴で、学名には「直線的に二股に分かれる」という意味があります。ハワイでは、葉を水に浸したものは便秘薬として、枯葉はマットとして用いられました。日本のコシダに良く似ていますが、葉の裏に繊毛が密生して白く見える点が異なります。ウルヘは他の植物に寄生し、ときに数メートルの高さまで伸びることがありますが、単独では1メートルほどの高さにしかなりません。比較的日当たりのよいところを好みます。枯葉は長期に分解せず、他の植物の種子の成長を阻害することがありますが、土壌の安定化や外来植物の浸入を防ぐ役割もあります。

ハワイ名:Uluhe, unuhe
学名: Dicranopteris linearis ウラジロ科コシダ属(スティケルス属)
英名:False Staghorn
和名:コシダ
原産地:亜熱帯~温帯地域 / 外来種
特徴: 一本の滑らかな紫色の茎を1メートル以上立ち上げ、そこから二股の葉をつけたあと、次々に二股に分かれながら広がります。カウアイ島のコケエ州立公園に一大群落があります。標高300~1500mの半湿地に生育します。

ウルヘ

ウルヘ

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。