日本と同じように周囲を海に囲まれたハワイ諸島には数多くの魚が住み着いています。今回はそのななから、ハワイの伝統文化に関わる魚を紹介します。ひとつはハワイ州の魚であるフムフムヌクヌクアプアア、王族の男性だけが食べることができたモイついてお伝えします。
フムフムヌクヌクアプアア
フムフムヌクヌクアプアア (Humuhumu nukunuku apua'a / reef triggerfish / タスキモンガラ / モンガラカワハギ科)は、1984年にハワイ州議会で暫定的に州の魚に決まりましたが、その後2006年に再投票が行われ正式にハワイ州の魚となりました。
フムフムヌクヌクアプアアはハワイの海ではそれほどポピュラーというわけではありません。サンゴ礁に生息しますが、他の熱帯魚と違って警戒心が強く、あまり人前に現れないからです。それにもかかわらず、この魚が州の代表とされているのにはいくつかの理由があります。
ハワイではペレという名の、火の女神がよく知られます。ハワイ神話によれば、ペレはかつてカマプアアという神を夫としていました。カマプアアはブタの化身であり、夫婦げんかで形勢が悪くなると、ブタに変身して逃げ出しました。ペレの怒りが治まらず、彼女が噴き出す熔岩で退路が断たれると、カマプアアは、今度は魚に変身して海に逃げ込みました。この魚がフムフムヌクヌクアプアアというわけです。
この長い名前は「ブーブーと鳴くブタ」という意味ですが、その理由は、捕まえるとブタのようにブーブーと鳴くためです。ちなみに、フムフムヌクヌクアプアアはもっとも長いハワイ名の魚とされますが、実際にはラウウィリウィリヌクヌクオイオイ(フエヤッコダイ/オオフエヤッコダイ)のように、州の代表よりも長い魚名はいくつかあります。また、モンガラカワハギ(Trigger fish)の仲間はみなフムフム(humuhumu)の名が付きます。
モンガラカワハギは体長約30cmほどの魚で、サンゴ礁に住みつき、強力な歯でウニやカニ、海藻を食べます。ブダイと同じく、食べたサンゴは排出されて砂となり、それが蓄積してビーチを形作ります。かつて先住のハワイ人はこの魚を、食用魚を調理する際の燃料として使用しました。日本でも紀伊半島以南に広く分布します。
モイ
モイ(moi / six-fingered threadfin / ナンヨウアゴナシ / ツバメコノシロ科)は、ハワイ歴代の王が珍重した魚です。さまざまなカプ(タブー)のせいで海で獲る機会が少なかったため、早くからイアロコ(養魚池)での養殖が行なわれました。今日では商業ベースの養殖が根づきレストランのメニュに登場することもあります。成長すると体長が45cmにもなる大型の魚で、体色は銀色で黒い斑があります。ちなみに英名は、6本の触手を持つことに由来します。
モイは砂浜や岩場の海岸に大きな群れを作り、波の荒い海域に生息します。海底の岩に付着する藻類を主食とし、細いヒゲで海底の堆積物を吸い込み濾過しながら表層の藻類を食べることもあります。
ハワイの伝統社会では、モイは王族の男性だけが食べることを許されました。平民は口にすることができず、食べると厳しい処罰を受けました。そのためモイは「王の魚」とも呼ばれます。開国後、モイは次第に枯渇しましたが、1990年代に大規模な養殖が行われ、生息数は一時期より増えています。とは言え、漁獲の対象とはならず、釣りで獲られるた増産計画により、モイのスポーツフィッシングは復活しました。今日ではハワイはもとよりアメリカ本土や日本でも食べられるようになりました。ただし超高級魚の扱いです。
モイは比較的油分が多いので、グリルや焼き魚、あるいは燻製にして食べられます。また、まれに刺身となることもあります。しかしもっとも適した食べ方は蒸し料理です。白身の肉はヒラメに似ており、地元でも高級魚として食べられます。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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