ワイキキ水族館のワイキキの東端にある小さな施設ですが、その歴史は古く、1904年に全米2番目の水族館として開設されました。(全米最古は1896年開館のニューヨーク水族館です。)当初の名前はホノルル水族館と言い、ハワイ諸島に生息する魚貝類や海生ほ乳類、植物などの展示を行う目的で設立されました。
施設の立ち上げにあたり、チャールズ・クックが建設資金8,000ドルを寄付し、ジェームズ・キャッスルは建設用地を長期リースの形で提供しました。協力の背景には、水族館のあるカピオラニ公園まで伸びるトロリー電車に乗客を誘致する一手段としての意味もありました。
開設当初の水族館では35の水槽と400の海洋生物を展示し、当時は世界最先端と謳われました。ジャック・ロンドンやロバート・スティーブンソンなど作家が推薦したこともあり、日本人観光客にとってもハワイで一番人気の観光名所となりました。
開設後15年間は、地元の漁師が集めた動物を展示する民間施設として運営されましたが、1912年になると、前述のクック財団が水族館に隣接する海洋生物学研究所の建設資金を寄付して、施設は拡大されました。ちなみに初代の研究所長であるチャールズ・エドモンドソンは、ハワイ住民として最初の海洋生物学者でした。エドモンドソンは熱帯海洋生物学の研究を押し広め、その後のハワイ大学海洋研究所への道を切り拓いたことでも知られます。
1919年、水族館の土地リースが切れると、クック財団は新設のハワイ大学に土地を譲渡し、大学は水族館と研究所の管理を引き継ぎました。1940年、ハワイ大学動物学部の教授だったスペンサー・ティンカーがホノルル水族館の2代目館長に任命されました。ティンカーはハワイ諸島の魚類だけでなく、太平洋の甲殻類などでも知られており、主著『Hawaiian Fishes』は今も研究資料として重視されています。
1949年、議会は水族館に新しい土地と建設資金を予算化しました。その6年後の1955年、水族館は200mほど南東にある現在の場所(約1ヘクタール)に移転し、このとき施設の名をワイキキ水族館に変えて再オープンしました。しかし入場料が州の予算に組み入れられてしまったため、施設の維持拡充ができなくなった水族館は次第に廃れていきました。常勤の職員はわずか7名となり、水槽の清掃もままならないありさまでした。加えて水族館の研究部門であるハワイ海洋生物学研究所(HIMB)が、カネオヘ湾のココナッツアイランドと太平洋生物医学研究センター(PBRC)に移ったことも、経営状況をさらに悪化させました。
1975年、レイトン・テイラーが3代目所長に就任しました。テイラーはサメの専門家として世界的な権威であり、ハワイ大学の動物学教授でもありました。彼は、水族館の窮状を知り、教育、保護、研究に取り組む必要性を理解するとともに、収入源を多様化することが重要であると判断しました。健全な運営を目指し、教育部門やボランティアプログラム、図書館、研究施設、ギフトショップ、ワイキキ水族館の支援組織であるフレンズ・オブ・ザ・ワイキキの創設などを行ったほか、1978年には施設のリニューアルを行いました。
1986年にテイラーが退任して以来、館長のポストは空席でしたが、1990年にテイラーの元で働いていたブルース・カールソンが4代目館長に就任しました。カールソン館長のもとでは世界的に有名となったサンゴ増殖プログラムを開始しました。彼は常勤のスタッフを37人に増やし、年間予算もテイラー時代の倍にしました。
1992年から1994年にかけて、議会は320万ドルの予算を立てました。これにより、展示生物以外に新ビジター施設を誕生させて、研究、教育、保全の各分野をまんべんなく充実させました。2000年には米国の沿岸生態系学習センターに指定されています。
2004年は水族館設立100周年となりました。この年、アンドリュー・ロシターが5代目館長に就任しました。彼は愛媛大学助教授や琵琶湖博物館職員の経歴もあります。2014年、水族館は110周年を迎え、さらなる施設の改善や展示生物の充実を図りました。また、シーライフ・パークから貸し出された6匹の子ガメを含むアオウミガメの展示も行われるようになりました。2020年3月から2021年7月まではコロナ禍のため一時休館しています。
現在、水族館には約500種の海洋生物とハワイにゆかりのある植物が展示されています。また、音声ガイドの機械の貸し出しやハワイモンクアザラシのエサやりショーなど、来館者のためのさまざまなサービスが用意されています。
所在地:2777 Kalakaua Ave, Honolulu, HI. 96815
電話:(808) 923-9741
料金:一般12ドル、65歳以上 および 4~17歳は5ドル、3歳以下は無料(各税込)
営業時間:9:00~17:00
定休日:12月25日
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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