いまから150年ほど前、元年者と呼ばれた最初の日本人移民がハワイに到着しました。当時のハワイは、純血のハワイ人とハワイ人の血が混じるものとで全人口の80%以上を占めていたので、伝統文化が色濃く残る時代でした。その2年後の1870年、リケリケ王女(カラカウア王の妹)の夫であったクレグホーンは、ホノカアの町に1軒の店をオープンさせました。しかし、それ以外に産業らしきものはなく、ホノカアの周辺では昔ながらの暮らしが営まれていました。
1875年、外国人が土地を所有することのできる法律(グレート・マヘレ)により、ホノカアの住民だったウィリアム・リチャードは、27ヘクタールの土地を128ドルで購入しました。彼はその土地に砂糖工場を作って運営しますが、ほどなく購入時よりはるかに高い価格で土地を売却しました。安く土地を入手した白人経営者はみな同じようにして高く土地を売却したため、先住民であるハワイ人が土地を入手することは実質的に不可能となりました。
1878年になってもホノカアを横断する道筋にはわずかに3軒の店と学校が1つあるだけでした。しかし1888年になると、裁判所ができ、精肉店やレストランもオープンして、活気のある集落となります。その後ハマクアに砂糖産業が数多く進出すると、町は急速に発展しました。1905年には砂糖の収益がホノカアの経済を潤すようになり、1930年代の初期まで町は拡大の一途を辿りました。
この時代に多くの店がオープンしました。イケウチ金物店(1903年)、サカタ・ビルディング(1913年)、ホテル・ホノカア・クラブとクラミツ・ホノカア・ガレージ(1918年)、ハセガワ・ストアとホノカア・シアター(旧タニモト・シアター / 1920年)、ボテロ・ビルディング(1921年)、バンク・オブ・ハワイ、メソジスト教会、フェレイラ・ビルディング(1927年)、ホノカア公立図書館(1928年)ピープルズ・シアター(1930年)、ヤマツカ・ストア(1934年)などが建てられました。
未来は輝いているかにみえましたが、1929年に勃発した世界恐慌をきっかけにホノカアの町への投機熱は醒め、建物の多くは売りに出されました。今日、当時と同じ場所で営業を続けているのは、わずかにピープルズ・シアターとホテル・ホノカア・クラブ、バンク・オブ・ハワイだけです。
1941年からはじまった太平洋戦争の最中、ホノカアはワイメア近くにキャンプを設置した海兵隊員が訪れるようになります。町は活気を取り戻し、クリーニング店やパン屋、文房具店、郵便局、バー、映画館などが賑わいました。メインランドからやって来た海兵隊員はハワイ語の発音に苦労し、ホノカアの発音がうまくできずに、"Honey Cow"と発音していたようです。
戦後、1950年から1960年にかけてホノカアの町は衰退しはじめます。島の東のヒロと、西のカイルアコナに経済が集中し、州道もホノカアの町を迂回したため、時代に取り残されるような形になったのです。タイミング悪く砂糖産業も斜陽の一途を辿り、合併を繰り返しながら規模を縮小して行きました。そして1994年に終焉を迎えます。その後、町は経済復興を林業に求めます。町の周囲にユーカリを植え、これを収益にしようとしましたが、伐採と出荷にかかる費用が販売価格より高いことがわかり、森は手つかずのまま今日に至ります。
ホノカアの町の基礎は、建物の名前からもわかるように、大半が日系人によって建てられたものです。初期のホノカアは日本の古い文化が息づく町でもありました。前回お話ししたピープルズ・シアターの最初のオーナーも日系人のタニモト氏でした。当時のホノカアには多くの日系人がおり、劇場は一大娯楽センターでしたから、映画だけでなく、さまざまな日本の出し物も上演されました。デビュー当時の美空ひばりもこの劇場で歌いました。ちなみに、ホノカアの日本人墓地は町の中心から1kmほど西へ進んだワイピオ・ハイウェーの山側にあります。この土地は当時、サトウキビ農園には適さない場所として使用を許された場所でした。
2003年、ハセガワ・ストアは子供たちがだれも店を継がなかったために閉鎖されます。2010年には長い歴史を持ったカネシロ・ストアも売却され、ホノカアに日系人の痕跡を辿るのは難しくなりつつあります。しかし、時代に取り残された町は、現代社会が失いつつある古き良きものをしっかり守り続けてきたため、今日、再び注目を集めるようになりました。町が再び賑わうのは住民の願いかもしれませんが、この町にあったスピードでゆっくり時間を進めるのが似合うように思えます。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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