ハワイでリリコイと呼ばれるパッションフルーツは、果実として生食されるだけでなく、さまざまな加工品となるほか、垣根として用いられるなどハワイの暮らしに深く溶けこんでいます。
16世紀頃のこと、キリスト教の宣教師が南米を訪れた際に、十字架のように見える花柱を持った植物に感銘を受けました。彼らが見つけたのはクダモノトケイソウで、その特徴的な紫色の花から「Flor de las cinco llagas(五つの傷の花)」と名付けられました。
ハワイでは1880年に導入され、すぐに家庭菜園などで人気が出ました。その後、1930年にマウイ島のリリコイ渓谷でパッションフルーツが野生化しているのを見つけたことがハワイ名の由来です。
パッションフルーツは和名をトケイソウと呼ぶものが多く、日本でも良く見られますが、原産地は中南米やアフリカを中心とする熱帯地方です。約10属500種があり、食用となるのはこのうちの約50種です。ハワイ諸島でも多くの種が野生化しています。一般にパッションフルーツと呼ばれるのはクダモノトケイソウを指しますが、ハワイではその他にも同名で呼ばれる仲間があります。
パッションフルーツのグループはトケイソウ科(Passifloraceae)に属します。学名のパッションは「情熱」と勘違いされますが、先に書いたように、本来の意味は「受難」です。三裂した花柱をキリストの十字架に見立てたためです。和名は同じく、この花柱を時計の針に見立てたことに由来します。
ハワイでもっとも良く出回っているのはクダモノトケイソウ(パッションフラワー、パッションフルーツ)です。原産地はブラジルで6cmから10cmの大きな花を咲かせます。ツル植物ですが、茎の部分が木質化して自立するため、先に書いたように垣根として用いられることもあります。完熟したものは生食の他、さまざまに加工されます。ただし未熟の果実には体に有害なので野生のものを口にするときは気をつけましょう。
クダモノトケイソウ
完熟すると外皮が紫色になるものと黄色になるものとがあります。ハワイではこの2つの品種を紫リリコイや黄色リリコイと呼ぶことがあります。紫色の実は比較的温度が低い地域が原産のもの、黄色は熱帯が原産であるため、ハワイでは紫色よりも黄色のリリコイを多く見ます。
完熟した果実の内部には大きな空洞があり、ゼリー状の果肉があります。果肉のなかには偏平な種子がたくさん入っていますが、果実を生食する際は一緒に食べます。ハワイではグァバに並んで人気があり、ジュースなどに加工されて広く流通しています。他にもリリコイ入りの地ビールやケーキやクッキー、バターなどが見られます。
クサトケイソウ
熱帯アメリカの原産で、苞(ほう)がネット状果実を包み込むのが特徴です。英名は「霧の中の愛」と言いますが、籠のような外観とそのなかに見えるハートのような赤い実を指して名づけられたのでしょう。完熟すると生食できます。
タマゴトケイ(キミノトケイソウ)
紫の長い縁取りが特徴的なトケイソウで、観賞用として人気があります。原産地は熱帯アメリカです。果実は完熟すると黄色あるいはオレンジ色となります。クダモノトケイソウとは異なるさわやかな甘みがあり、小規模ながら栽培もされています。
ベニバナトケイソウ
ベネズエラからボリビアにかけてが原産です。花のサイズはハワイで見られるなかでは最も大きく、8cmから10cmほどあります。よく似た仲間にアカバナトケイソウがあります。いずれも完熟すると生食できます。味は一般的なトケイソウと異なり、グズベリーに似ています。
バナナポカ(ポカ・マイア)
和名をモリシマトケイソウと言い、南アンデスが原産です。ピンクの花弁を下向きにしてプロペラ状に咲きます。果実はラグビーボールを細身にしたような形状で、熟すとレモンイエローになり生食できます。標高1200m以上の高地に分布しますが、ハワイではその繁殖力の強さから有害植物に指定されています。ちなみに「ポカ」とは「クズ」と言った意味です。食べられるとは言ってもクダモノトケイソウなどより味が劣るのでほとんど食べられることはありません。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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