ワイルアの我が家から町へ出るのに、毎日のように車で通る道のひとつに「Kuamo'o Rd.(クアモオ・ロード)」という道があります。
ワイルア川と並行に走るこの「クアモオ・ロード」は、古代ハワイでは「王者の道」と呼ばれ、貴族階級の人しか入れなかった道だったそう。そういうことも関係してか、「クアモオ・ロード」沿いには、たくさんのHeiau (ヘイアウ … 聖地)が点在しています。一年を通してある期間(またはたった一晩?)、このクアモオ・ロードと天の川がぴったりと重なる日があり、その夜の空に配置される星座の位置を大地にマーキングしたのが、点在するヘイアウの位置だと言う興味深い話もあります。
豊穣な恵みを人々に与えるワイルア川一帯のこの地域「ワイルア」は、カウアイ島、そこに住む島人にとって”特別な場所”とされていたということもあり、その中心になるワイルア川、それと並行に聖なる山ワイアレアレに続くこの道は、古代ハワイの人にとって神の住む場所に続く道、聖なる道であったようです。また、ヒイアカ(火の女神ペレの妹)の旅もこのワイルアから始まることもあり、ハワイ文化、フラを学ぶ人にとっては、特別な関心が寄せられている一帯でもあるのだと思います。
そのクアモオ・ロードの入り口に「Holo Holo Ku Heiau(ホロ・ホロ・ク・ヘイアウ)」という聖域跡があり、カウアイでは最古のヘイアウだとされています。伝統的なハワイ名では”Ka leo o ka Manu" … と呼ばれるそうで、いまも2つのサインが残っています。伝説によると、タヒチから最初にパフ・ドラムが奉納されたのはこのヘイアウだそう。タヒチの人々にとっても、カウアイ島のこの土地は特別な場所だと位置づけられていたのを語る物語りだと思えるお話です。さらにこのヘイアウの一画には、「Pohaku Ho'o Heiau (ポハク・ホオ・ヘイアウ)」というヘイアウがあり、王、王女になる人物が生まれる際には、ここで出産をしたと言われています。カウアイ島だけではなく、他の島からもロイヤル・ファミリー・メンバーの出産の際にはここを訪れたそうで、船でカウアイに到着して、このヘイアウに入るまでは王、王女を産む母となる人物が土地に身体の一部でも触れることがあってはならず、そういう役割りの者たちに抱えられてヘイアウに入ったそうです。
さらにその一画には「Pohaku Piko(ポハク・ピコ)」のサインがある石があり、そのくぼみに誕生した赤ん坊のへその緒を隠したそう。そのへその緒がネズミに盗まれてしまったら、将来その子は盗人になり、隠し通すことが出来れば、立派な島の王様になれるという … なんだか分かりやすい伝説があります。それとはまた別に、王、王女になる人物が産まれる際には、周囲に稲光り、雷、激しい雨が降り、そのあとに大きな虹がかかったという伝説もあります。フラをする中で、稲光り、雷、雨、そしてそのあとに架かる大きな虹は最大の祝福だといつも聞いている私自身は、後の伝説の方がピンと来るのですが … 。どちらにしても、特別な人物が産まれる際には何かサインがある。とてもハワイ的な伝説だなーと思います。
さて、この一画の奥に丘に続く道があり、そこは石の階段状のものになっていて、手すりになる柵が取りつけられてあります。そこを上がっていくと、意外にも思える風景があります。日本人墓地です。
カウアイ島の人々にとって、古代ハワイアンにとって、特別だった場所、その一番高台に日本人墓地が広がっているというのは、ほんとうに不思議な光景です。ハワイアンでさえ、王族関係の人以外は入れなかった聖地になぜ日本人墓地があるのでしょうか。ハッキリとした理由は探せないままでいますが、ローカルの人の意見では、ハワイの王族と特別な関係にあった日本人ファミリーの先祖たちが眠っていると思う、という意見でした。少しだけ調べたところでは、いま現在この墓地はカウアイ郡のもので、ボランティアの人々によってケアされているとのことです。
この日本人墓地がある高台からは、ワイルア川が一望でき、いつも涼しい風が吹いています。時々、思い出したように私はこの場所に足を向けます。墓石の間を歩き、墓石に彫られた名前や出身地、年代を見てまわります。150年ほど前の西暦が彫られたものもあり、すでに苔に覆われて風化している墓石もあり、いろいろな宗教のものが混じって建てられています。つい最近、ここに寄った時にはあらたに建て直された墓石が目立ち、遺族の方々によって手が入れられたのだろうと思われます。機会を持ってそういう方々にお会いして、お話を聞いてみたいなぁと思っています。
この場所に来ていつも思うのは、この墓石たちは長い年月をかけて、この土地の移り変わりを見てきたんだなあ、ということです。日本では明治維新前の頃です。まだ私たちの先祖は着物を着ていた頃ですよね。サムライ時代です。そんな時にハワイに渡って来た日本人がいたこと。そんな頃からの時代の流れを見守ってきたかもしれない墓石たち。
この場所にたって、涼やかな風に吹かれていると、想いは自分の知り得ないはるか昔のハワイへ、日本へと飛んでいくような感覚に見舞われます。宗派もなく、国籍もない、不思議な空間。それが私にとってのこの場所です。静かにワイルア川を見下ろすこの場所に佇んでいると、タイムトリップをしたような不思議な感覚と、そっと手を合わせたくなるような敬虔な気持ちになります。私にとっては、静寂なエネルギーに満ちた場所です。ハワイのヘイアウから続く石段は、古代ハワイへの、また昔の先祖の物語りに想いを馳せる扉です。
カフナと呼ばれる人とカウアイを廻った時に、その何人かがこのヘイアウでチャンティング(ハワイの詠唱)をとなえ、ポハク(石)におでこをあて、掌をあてて祈ってらっしゃったことがあります。また、そういう風景を車で通過する時に見ることもよくあります。聖地と呼ばれる場所には独特なエネルギーを持つ風が吹く。たくさんの人が、たくさんの想いを置いていった場所。ビュンビュンと車が走る忙しいハイウエイを一歩入ったところにある、ハワイのヘイアウと日本人墓地。ここは、プチっとスィッチを入れるように、忙しい日常に静かさを運んでくれる、私にとっての聖地です。
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