1月中旬のこと。「今週●曜日に儀式をやるので、朝陽の時間にケアリア・ルックアウトにてカヒコ衣装で集合」とクム(フラの師)からメールが来た。いつものごとく、詳細はまったく書かれていない。
ハラウ(フラの教室)にいるフラシスターの数人とレンラクを取って、服装、身につけるレイを自分たちなりに推測してみる。昨年は毎年恒例で行われる「冬至の儀式」がカウアイで開催されなかった。ハラウに所属して20年ほど、冬至の儀式が行われなかったのは初めてのことである。
私自身は冬至の日、12月21日にクムとともに日本にいて「冬至の儀式」を日本で行なっていたのだけれど、カウアイのメンバーは冬至の儀式がないままに始めて新年を迎えることになった。
冬至は、フラを学ぶプラクティショナーにとっては年末年始にあたる儀式だと教えられている。毎年、何気に“あたりまえのこと” として参加していたけれど、いざそれが行われないと、違和感のあるものである。
そういうこともあって、年始1回目になるこの儀式を自分なりには年始の儀式として参加することにした。なので、正装にあたるフルセット.....頭につけるレイポー、首にかけるレイアイ、手首足首につけるクペエと6つのレイを編んで、衣装はウニキで渡されたものを身につけることにした。
その数日前にフラシスターでもある友人から「前日、泊まりに行っていい?」とレンラクがあった。儀式の行われるケアリア・ルックアウトは我が家から車で10分程度。彼女の住むラワイからは少し遠い。朝が早いのが弱い彼女としては、少しでも起床時間を短縮するための策というわけだ。もちろんいいよ~と返信。
「明日、何時に起きる?」と友だちと話し、集合が6時半だから、5時起床!ということになってベッドに入った。
翌朝、リビングでコーヒーと彼女が持って来てくれたリンゴ、我が家にあったバナナをモグモグしながら四方山話をしていて、ハッと気づいたら、「ぎゃ~もうこんな時間っ! 家でなきゃ~! 早く起きた意味ないし~」と言いながらお互いの車に乗って我が家を飛び出した。
我が家からケアリアに行くには、裏道を通って北方向に向くショートカット道を通り、ハイウエイを北に向かっていく。ところが、どの瞬間からか私の頭の中では集合場所が、ケアリア・ルックアウトではなくリッドゲート・パークにある「Hikinaakala Heiau ( ヒキナアカラ・ヘイアウ....朝陽を迎えるヘイアウの意) にすり替わってしまっていた。
裏道を通らずに、反対側に出るクアモオロードをあたりまえのように下り、ハイウエイにぶつかる信号で右折レーンに入った。すると、左折レーンに入った友だちが車の中から叫んでいる。
「なに?」と聞き返すと、
「左、左、左折ですよ。ケアリアだよ!」
「おっと~、そうだった~」
と慌てて彼女の車の前に入って、左折。
彼女がいなかったら確実に右折して、リッドゲートに向かっていただろうと思う。
ちなみにリッドゲートにある「Hikinaakala Heiau ( ヒキナアカラ・ヘイアウ)」はハラウでも、また私自身がやっているツアーでも朝陽の儀式を行うところ。習慣というのは恐ろしいものである。
無事にケアリア・ルックアウトに着くと、昇りつつある朝陽が辺りを柔らかなオレンジ色に染めている。他のフラシスターたちの着付けを手伝って、自分たちも身支度を済ませて、パフ(フラ・カヒコで用いる太鼓)など儀式に用いるインプリメンツを並べていく。
気づくと「来る」と言っていたフラシスターが来ていない。美代子さんと言う、私にとってはクム同様にカウアイのお母さんのような人だが、この人がしっかりしているようで、なかなかにいろんな場面でいろんなことをやらかしてしまう人でもある。
「美代子さんのことだから、私みたいに勘違いしてリッドゲートに行ってるんじゃない?」と私。
「そうかもですよね~」と、私をケアリアに無事に到着させてくれたしおりちゃんが言う。
そして驚くことには、美代子さんはケータイ電話を持っていない。iPod を最近になってようやく持ってくれたのでLINEはできるが、敏速にLINEをチェックしてくれることは期待できない。ともかく無事に着きますようにと願いつつ、間もなく儀式が始まるのでマットなどを引いて用意をすすめるていると、美代子さんが、見るからに「いま起きました」という顔で到着した。
「もしかして、寝坊?」と聞くと、やってしまったという返事。美代子さんはアラームもかけたことがないという人。それでも儀式に遅刻したことは、私の記憶の限りでは一度もない。冬至の儀式では1分でも遅刻したら参加はなし、即帰宅ということもあるので、みんな確実にオン・タイムで行くけれど、 突然の朝陽の儀式に油断してしまったのだろうか。
ともかく、来ると言っていたメンバーが全員揃って朝陽の儀式は無事に始まり、終了した。
ケアリア・ルックアウトと言うのは、カパアの北の端にあるケアリア・ビーチを見降ろす場所にある。
ケアリア・ビーチは、仕事に行く前、仕事終わりに寄れるビーチと言うこともあって、いつもローカル・サーファーたちで賑わっているほか、散歩に来たり、家族連れで時間を過ごしている人も多い。
そんな喧騒が始まる前の、朝陽の時間のケアリアは、静寂に満ちている。水平線から朝陽が昇り、どんどんと上昇していく。それにつれて、カラダもポカポカと暖まっていく。
各自がどんな想いを持ってこの儀式の時間を過ごしたのかは私には分からないけれど、私自身は今年もたくさんのワクワクに満ちた一年になるといいなという願いを込めて、踊り、チャンティングをした。
私たちの年代は、自分自身もそうだけれど、とくに親の世代にカラダの変化が起こる可能性が出てくる年齢に入って来ている。嬉しくない病気の報告があったり、悲しいお別れがあったりもする。
そして若くても、年齢を多く重ねていても、各自の手の中に確実にあるのは、やはり、いまこの瞬間だけなんだなと言うことをよく思う年齢でもある。
多くの人が「この瞬間をせいいっぱい生きる」と言うことをよく口にするし、私自身もそう思う。
けれど実際には、毎日毎日を、全力で精一杯、暮らしていけているかというと、なんだかやる気が出ないな~という日もあると思う。
なので、がむしゃらにただ前向きというよりは、その時その時の状況、心境の中で、自分なりにベストを尽くす。そういう気持ちを込めて、年始の儀式の時間を過ごしてみた。
少し遠くの海面には、数匹のイルカが跳ねていたらしい。ずっと向こうの水平線にはクジラの姿も見えたらしいと言うことを、後になってフラシスターたちから聞いた。なかなかに楽しそうなカウアイの一年の幕開けである。
気がつけば、もう2月。
遅まきながら、このサイトを読んでくださっているみなさんにも、楽しいことがいっぱいの一年になりますように! ハワイ、カウアイより心からのアロハをお送りします。
今年もどうぞよろしくお願いします。
筆者プロフィール
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