太平洋に広く散りばめられたポリネシアの島々のなかで、唯一火山の噴火活動がつづくハレマウマウ・クレーターについて神話を交えながらお伝えします。

旧ジャガー博物館前でハレマウマウの解説をするレンジャー

旧ジャガー博物館前でハレマウマウの解説をするレンジャー

ハワイ島にはいまも噴火活動をつづける火山が3つあります。ひとつはカイルア・コナの東にそびえるフアラーライ山、2つ目はマウナ・ケアに次ぐ4千メートル峰のマウナ・ロア、そして3つ目がキラウエア火山です。なかでもキラウエアはもっとも活動が活発で今に至るまで溶岩を噴き出しています。

盛大に噴煙を上げるハレマウマウ(2008年)

盛大に噴煙を上げるハレマウマウ(2008年)

キラウエア火山はマウナ・ロアの山麓に位置するため、当初はマウナ・ロアの寄生火山と見られていました。しかしその後の研究で、マグマの供給経路がまったく異なる独立した火山であることが判明しました。

ハレマウマウの空撮、遠くに噴煙を上げるプウ・オーオーが見える(2003年)

ハレマウマウの空撮、遠くに噴煙を上げるプウ・オーオーが見える(2003年)

キラウエア火山には大きなカルデラがあり、そのなかにハレマウマウと呼ばれるクレーターがあります。キラウエア地域にはこの他にもカルデラに隣接してキラウエア・イキ(小さなキラウエアという意味)を筆頭に東へと続くチェーン・オブ・クレーターズと呼ばれる噴出口跡が数多くあります。この他にもマウナ・ウルと呼ばれる火山のほか、活発な溶岩噴出をつづけるプウ・オー・オーがあり、南東と南西方面にはリフト・ゾーンと呼ばれる長大なひび割れがあります。このようにキラウエア火山一帯には火山活動に伴う火山やクレーター、リフト、地下空間(火山洞窟)などが無数に存在します。

夜空を赤く染めるハレマウマウの噴煙(2005年)

夜空を赤く染めるハレマウマウの噴煙(2005年)

地下のマグマ溜まりから噴き上がる溶岩の活動はハレマウマウから20kmほど東に位置するプウ・オー・オーを経て島の東端にあたるアイザック・ハレやカホヌアまで続いています。厳密に言うならこの活動は海にまでその範囲を広げており、島の東南の海底にはロイヒと名づけられた海底火山があって日々成長しています。遙か未来の話ですが、5万年後には海上に姿を現し、その後も拡大を続け、数十万年後にはハワイ諸島最大の島になるとされます。

この噴火活動によって溶岩が流れ下り周辺の集落や田畑を呑みこむことが繰り返されてきました。19世紀後期にハレマウマウを訪れた旅行作家のイザベラ・バードは強大な溶岩の池に驚愕したことを著書で伝えています。そこには下のようなスケッチも添えられていて、当時のハレマウマウ・クレーターは手前と奥にふたつに隔てられていたことがわかります。

バード著『サンドイッチ諸島の6ヶ月』より

バード著『サンドイッチ諸島の6ヶ月』より

とくに1983年以降は休むことなく噴火しています。1990年にはカラパナで、2018年にカポホ集落の一部が溶岩流に覆われました。2018年以降、溶岩の噴出は小康状態にありますが、2023年にもハレマウマウでは溶岩を噴出しており、今後もしばらく活動は続くとみられています。

キラウエア火山は噴火をはじめると1日におよそ20万~50万立方メートルの溶岩を流します。その結果、ハワイ島はいまも拡張を続けており、1994年以降、200ヘクタールの新しい土地が誕生しました。

2009年と2018年のハレマウマウの比較

2009年と2018年のハレマウマウの比較

キラウエア火山の周辺ではホットスポット(マグマ溜まり)から上昇するマグマの影響を受けて火山活動がつづきます。短期的(数百年~数千年)には島に変化が生じるだけですが、長期的(数十万年~数百万年)ではハワイ諸島自体が北西へと移動しながら風雨や波浪の影響を受けて小さくなっていきます。キラウエア火山はいまハワイ島の内陸にあるので、今後も島は拡大を続ける可能性があります。

2024年現在のハレマウマウは2018年の活動によって大きくその形を変え、2021年以降東西は約900メートル、南北は約640メートルあります。下にUSGS(米国地質調査所)が発表した2018年の噴火と2009年時点のクレーターの比較図面を掲載しておきます。2018年の噴火がいかに大規模であったかがわかると思います。

現在のハレマウマウ(2023年)

現在のハレマウマウ(2023年)

ペレとカマプアア

先住の人々はこの火山にキーラウエアという名前を付けました。この言葉にはハワイ語で「噴出する」「拡張する」という意味があり、当時、彼らが止めどなく流れる溶岩を目にして、その圧倒的なパワーにこのような名前を付けたことが想像できます。ちなみにワイキキの正しい発音はワイキーキーと言い「噴出する水」を意味します。

ペレに奉納するフラの踊り手(2006年)

ペレに奉納するフラの踊り手(2006年)

ハレマウマウには火の女神ペレの霊が住みついていると信じられました。ペレは兄弟姉妹とともにタヒチからハワイへやってきましたが、最初にニイハウ島に上陸したペレは、住むのによい場所を探しますが見つからず、その後、カウアイ、オアフ、マウイと、島々を渡り歩きました。そして最後にハワイ島のキラウエアに終の住みかを見つけました。

ペレは姉のナーマカオカハイの怒りを買ってハワイの島々を逃げ続けるのですが、最後には殺され、霊となってハレマウマウに住みついたという神話があります。そのため、ペレの怒りを買わないようにと、人々は首飾りのレイや酒(ジンなど)を火口の縁に供えたりします。

この神話の背景には、20世紀初頭までカルデラ内のハレマウマウ・クレーターが溶岩に満ちた湖であったことがあります。ハレマウマウというハワイ語は、ハレとマウマウに分けることができます。ハレは「家」や「住みか」を意味します。マウマウはアマウマウの短縮形で、アマウというシダを指します。

ハレマウマウは火の女神ペレの住みかとして知られますが、彼女の夫となるカマプアアはアマウの森に住んでいて、このシダを自由に操りました。伝承によればアマウは、豚や魚、あるいは植物に姿を変える半神カマプアアのキノラウ(憑依したもの)のひとつです。雨の多い緑豊かな森は彼のすみかでした。

カマプアアはペレに一目惚れしますが、ペレはブタの姿をした品性のない男をひどく蔑んで遠ざけました。それでも求愛をつづけるカマプアアに怒ったペレは溶岩を流して彼にひどい火傷を負わせます。カマプアアは苦しさのあまりアマウに変身して難を逃れました。

ペレとカマプアアの戦い(ハーブ・カーネ作)

ペレとカマプアアの戦い(ハーブ・カーネ作)

しかし人の姿をしたときのカマプアアは美しく、思い直したペレは夫婦となることを承諾します。カマプアアはアマウを使ってハレマウマウ全体を覆いつくすような家を作りました。カマプアアはペレが溶岩を流さないようにと巨大なアマウの屋根をつくったのです。残念ながらふたりはしばしば夫婦喧嘩をし、やがて関係を断ってしまいました。そのせいかどうかはわかりませんが、今もペレの怒りを表す噴煙がハレマウマウ・クレーターから上がり続けます。

 

 

筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。

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