前回の日本の作家に引き続き、王国時代のハワイから今日に至るまで、英米文化の視点からハワイの物語を書き記した作家を取り上げました。物語はもちろん、その背景にあるハワイの文化や自然を楽しんでください。

『鍵のない家 ~ハワイ資産家殺人事件~』 アール・デア・ビガーズ

ワイキキの名門ホテルとして知られるハレクラニを舞台としたミステリーです。ホノルルの資産家がワイキキビーチに建つ豪邸で殺されました。主人公のメインランドからハワイを訪れたジョンは伯父を殺した犯人を見つけ出そうと、ホノルル警察のチャーリー・チャンとともに捜査を開始します。周辺を洗ううちに思いもよらぬ伯父の過去が暴かれていきます。ミステリーとしてはもちろん、古き良き時代のホノルルの描写が秀逸な作品です。(‎論創社)

鍵のない家

鍵のない家

『ハワイ暗黒殺人』 ロバート・ウォーカー

検死官のジェシカは、殺人犯との戦いという激務を忘れようとハワイを訪れます。しかしハワイに着いて間もなく、地元のFBI支局長から連絡が入ります。ホノルルで若い女性の失踪が続いていて、今回は観光地から被害者の遺体の一部が発見されたというのです。しかも現場近くには警官2人の惨殺死体までありました。春になると吹きはじめる貿易風とともに発生した「貿易風殺人鬼」の出現に、ホノルルの街は騒然とします。FBIや警察は必死の捜査をするものの、犯人はそれを嘲笑うかのように犯行を重ねます。犯人の影を追うジェシカたちは、外部の人間を拒む禁断の島へと潜入し、犯人と対峙します。(扶桑社ミステリー)

ハワイ暗黒殺人

ハワイ暗黒殺人

『マイクロワールド』 マイクル・クライトン、リチャード・プレストン

大学で生物学を専攻するピーターは新薬開発を行なうベンチャー企業に就職し、ハワイの謎めいた研究所に招かれます。ピーターと仲間たちはそこでテンソル・ジェネレーターなる縮小マシンにかけられ、身長2cmの「マイクロヒューマン」にされてしまいます。彼らは必死に脱出を試みます。しかし彼らを疎ましく思う社長は、武装した刺客を縮小して送り込みます。彼らは無事元の体に戻ることができるのでしょうか。*本書は亡くなったクライトンの未完の遺稿をブレストンが書き継いだものです。(早川書房)

マイクロワールド

マイクロワールド

『エデンの炎』 ダン・シモンズ

本書は予備知識なしに読んでもそれなりにおもしろいですが、ハワイの文化や自然についてある程度知っていると、さらにおもしろさが膨らみます。主人公エレノアの遠縁にあたる女性と作家マーク・トゥエインとの意外な関係、火山噴火がもたらすとてつもない自然災害、そしてハワイ神話の悪夢がもたらす事実。深いハワイの知識を背景に描かれたこの作品は、ハワイに対する想いが深い読者に大きなインパクトを与えることでしょう。ハワイの伝統文化を破壊する開発のせいで、地底に封じこめられた悪しき神々の呪いが解き放たれます。火を噴く山、言葉を話す獣、宿泊客の失踪という深刻な事態のなかで、エレノアは遠縁の女性が残した手記を頼りに、悪夢の支配者の住みかに近づこうとします。ミステリーとしてもホラーとしてもハワイの自然や文化を知る上でも1級のエンタテイメントと言えるでしょう。(角川文庫)

エデンの炎

エデンの炎

『こびんの悪魔・声の島』ロバート・ルイス・スティーヴンソン

古典的名著である『宝島』で知られるスティーヴンソンが、王国時代のハワイを舞台に描いた短編です。『こびんの悪魔』は、どのような願いでも叶えてくれるという不思議なこびんを手に入れたケアヴェは、幸せな人生を得るどころか、恐ろしい事態を招くことになります。『声の島』は、呪術師の怒りをかったケオラが、無人島で恐ろしい体験をするという物語です。スティーブンソンは王国末期にカイウラニ王女の話し相手になったこともある作家で、作品にはハワイに対する深い愛情が見え隠れします。*本書はKindle版のみですが、『びんの悪魔』のタイトルで福音館書店からも書籍版が発売されています。

こびんの悪魔、声の島

こびんの悪魔、声の島

びんの悪魔

びんの悪魔

『ワイルド・ミートとブリー・バーガー』 ロイス・アン・ヤマナカ

ハワイ島のヒロに暮らす日系人のラヴィは、美しく変身したいという願望を抱えた女の子です。しかし現実は理想とはほど遠いものでした。学校ではピジン英語と呼ばれる訛りのひどい言葉を注意されます。内に引きこもりがちの彼女は、下校すると、一家総出の農作物の収穫に駆り出されるという毎日でした。彼女の唯一の友だちは女の子のようになよなよとした少年ジェリーです。なぜか波長が合い、いつも2人で遊んでいました。ラヴィを含むアジア系の子どもたちは白人のようになりたいと望みます。おそらくそれは当時まだ残っていた人種差別のせいでもありました。白人社会は金持ちで優雅な暮らしをしていたので、自分たちが惨めに見えたのです。にもかかわらずフィリピン系移民を見下したり、悪ふざけをする日系人を「このジャップが!」と罵ったりします。ハワイという土地で彼女たち日系人の置かれたさまざまな事柄を実に印象的に展開したお勧めの作品です。原書はピジン英語のオンパレードです。よりリアルに彼らの世界を体験したい方はぜひ原書にも目を通してください。(東京創元社)

ワイルド・ミートとブリー・バーガー

ワイルド・ミートとブリー・バーガー

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。