今回は日本の作家によるハワイの小説を紹介します。物語のそこかしこに、みなさんが感じたハワイがちりばめられていると思います。

『カイマナヒラの家』池澤夏樹

カイマナヒラとはダイヤモンドヘッドのこと。この麓に建つ家を中心に、そこに集まる人々を語ります。架空の話ではありますが、物語に名を借りた著者のハワイに対するオマージュのような作品と言えます。また、本作には芝田満之による写真が挿入されていて、物語のリアルさを高めています。人々の光と影、都市と自然、ハワイという島が織りなすさまざまな情景が描かれています。

カイマナヒラの家

カイマナヒラの家

 

『ホテル・ピーベリー』近藤史恵

不祥事を犯し、失職した俊事項は傷心の思いを抱いてハワイ島へ渡ります。宿泊したのは日本人が経営するピーベリーという名のホテルでした。このホテルには不思議な規則があり、宿泊できるのは一度だけ。なぜそのような規則があるのかは少しずつ明らかになります。物語にはハワイ島各処の名所が描かれ、この島を訪れたことのある読者は二重の足しのみになるはずです。ちなみに、ピーベリーとは、コーヒー豆のうち、通常は2個入っている種子どうしが癒着して1個になったものを指します。なぜホテル名はピーベリーなのか。やがて答えは明らかになります。

ホテル・ピーベリー

ホテル・ピーベリー

 

『まぼろしハワイ』よしもとばなな

どことなく稀薄な関係の家族がいる。パパが死んだとき、オハナは自分がいかに彼を愛していたかを知ります。傷心を抱いた彼女は義母のあざみとともにハワイへ向かいました。ホノルルではあざみの育ての親であるマサコが迎えてくれます。あざみもマサコもフラを踊る人でした。オハナにとり、フラを通じて知るハワイの自然には多くの気づきがあり、自然に包まれながら暮らすうちにパパの喪失感に対して穏やかな感情を抱いていることに気づくのでした。著者自身もフラの修業を積み、5年に渡りハワイを行き来して完成させたと言います。本書にはハワイ、フラ、そして家族にまつわる3つの物語が収録されています。ちなみにオハナとはハワイ語で家族を指します。

まぼろしハワイ

まぼろしハワイ

 

『波乗りの島』片岡義男

サーフィンという限られたテーマにも関わらず、波そのものに物語性と臨場感があります。登場人物は同じながら異なる短編「白い波の荒野へ」「アロハ・オエ」「アイランド・スタイル」「シュガー・トレイン」「ペイル・アウト」の5篇から構成されます。とくに「ペイル・アウト」は物語性が強く、力強さを感じます。本書を通じてハワイのローカル、とくにサーフィンを愛する流浪の若者たちをよく知ることができるでしょう。また、サーファーを通じてハワイの文化とは何かについても多くの気づきがあります。

波乗りの島

波乗りの島

 

『パイナップルの彼方』山本文緒

会社での日々が次第に重荷となっていった若きOLの私は、すべてを捨ててハワイへ行き、パイナップル工場で働こうという妄想に駆られます。妄想を抱いている間だけは自由な気持ちになれたのでした。次々と訪れる問題に傷つき疲れ果てる私でしたが、人との関わりに心を暗くしつつも、やはり人との関わりで救いを見出します。ハワイの立ち位置は、もしかすると多くの日本人の心のなかに宿る「憧れの南の島」のようなものかもしれません。今ここにないもの、癒される場所、すべてを忘れることができるところ。私の妄想を通じてひとりひとりのハワイが浮かび上がるように思えます。ちなみに本書は著者自身のOL時代の体験が加味されているとのことです。

パイナップルの彼方

パイナップルの彼方

 

『サウスポイント』よしもとばなな

ハワイ音楽が物語りを通じて奏でられる。そんな気持ちになる恋愛小説です。幼い頃に送ったある少年への一通の手紙。時を経て、彼はミュージシャンとなり、主人公の彼女はキルト作家になっていた。あるとき、彼女は彼に会いに行くことにする。そこにはやむにやまれぬ事情があった。出会った彼は、しかし彼女が求めていた彼ではないと言われる。それはなぜななのか…。軽いミステリー調が感動の結末へと通じます。よしもとばななの作品としてはかなり甘ったるいラブストーリーと言えるでしょう。

サウスポイント

サウスポイント

 

 

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。