オヒアはフトモモ科オオフトモモ属の植物です。小笠原諸島には近縁のムニンフトモモがあったため、かつてオヒアはハワイフトモモとも呼ばれました。ハワイ諸島に広く分布することからハワイ島のシンボルになっています。
オヒアはハワイの原生林の主役を務める木のひとつです。枯れ木のような外観は地味ですが、そこにつける小さな赤い花(レフア)は鮮やかで印象的です。長く伸びる赤いひも状の部分はしべです。たくさんのおしべと1本のめしべで構成され、それが複数集まってボンボン状に広がります。レフアには赤色の他に、オレンジ色や黄色もあります。花弁はとても小さく、開花後ほどなく落ちてしまいます。咲き終えた後にできる小さな種子は風に乗って遠くへ飛ばされます。
アパパネをはじめとするハワイミツスイの仲間など、ハワイ固有の山鳥も、オヒアの花(レフア)と共生してきました。
オヒアはなぜハワイ諸島に広く分布するのでしょうか? それは、さまざまな環境を巧みに生き抜く知恵を持つからです。オヒアの学名である「polymorpha」には「さまざまに変化する」という意味があります。このようにオヒアは、生育する環境によって外観を変えてきました。カウアイ島のアラカイ湿原へと続くピヘア・トレイルの周辺に生育するオヒアは10メートルほどの樹高ですが、湿原に近づくにしたがって低くなり、湿原地帯に入ると樹高はせいぜい50cmほどしかありません。丈の高いオヒアの葉は薄く明るい色をしていますが、湿原地帯のオヒアは葉は小型で暗い色をしており、裏側には毛(繊毛)が密生しています。
オヒアは日差しをたくさん必要とする植物です。溶岩が流れたあとの黒々とした平原に最初に根づくのは地衣類やコケ類ですが、その後、岩の割れ目にクプクプ(タマシダ)やアマウ(シダの仲間)、オヘロ(ツツジの仲間)などが顔を出し、それとともにオヒアも芽吹きます。やがてオヒアによる森林が形成されますが、これはオヒアの消滅のはじまりでもあります。なぜなら、オヒアが生長して森林をつくると、地面には十分な光が届かなくなります。すると多くの日差しを必要とするオヒアの種子は発芽しにくくなります。また、たとえ発芽しても光が足りないせいで生長できません。
ふつう、このような環境には日陰で育つ樹木が生長をはじめ、オヒアのような木は姿を消すことになります。ところがハワイ諸島には日陰で育つ樹木がなかったため、オヒアは単独で森を維持し続けてきました。やがて寿命が来ると次々に倒れ、オヒアの森は姿を消します。しかし、親木が倒れると地面には再び十分な日差しが届くため、オヒアの芽の種子は発芽し、生長しはじめます。ハワイの原生自然では、オヒアが世代交代を繰り返しながら、森を維持してきたのです。今日、2万を超える外来種がハワイ諸島に根づきますが、オヒアはいまなお、20%に近い占有率を保ちます。
オヒアの森が更新されるとき、次世代のオヒアは親世代と同じ性質であるとは限りません。新しい環境に適した形に自らを変えていくのです。生育環境に応じた適応を行ないながら、さまざまな外観を獲得してきました。
オヒアと伝統文化
オヒアの花(レフア)は火の女神ペレの化身(キノ・ラウ)として敬われます。フラのハーラウ(学校)では象徴として供物台に置かれます。ペレの末妹であるヒイアカにフラを教えたホーポエは、オヒアの森に住んでいたとされます。オヒアは薬としても活用されました。オヒアの樹液とハウ(オオハマボウ)の蕾を調合したものは、出産の傷みを緩和する薬として用いられました。また、花と葉はレイに用いられます。
ハワイ名:'Ōhi'a, 'Ōhi'a Lehua, Lehua
学名:Metrosideros polymorpha フトモモ科オオフトモモ属
英名:Ohia, Ohia lehua, Lehua
和名:ハワイフトモモ
原産地:ニイハウ島とカホオラヴェ島を除くハワイ諸島。ハワイ諸島にだけ自生する固有種
特徴:20~30cmほどの灌木から20mを超す高さまであり、環境によって大きくサイズが異なる。長さ数ミリの花弁と萼は5枚ずつつけるが、開花初期に落下しやすい。花は周年で咲く。一般に花とされるのは1本の雌しべと複数の雄しべからなる。しべの長さは2cm前後。赤色が多く、まれに黄色やオレンジ色となる。近縁種のオヒア(M. macropus)は基本色が黄色で赤色は少ない。レフアとは一般に花を指すが、オヒアの木をオヒアレフアと呼ぶこともある。若い葉(リコ・レフア)はピンク色または赤色となることがある。標高300~3000mの日差しの多い土地に生育する。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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