オヒアは人がこの地に住み着く以前からハワイ諸島に定着していた在来の植物です。外来植物に圧倒される今日においてさえ、オヒアの森は諸島最大の面積を誇ります。それゆえ、オヒアは先住のハワイ人にとって大きな存在感を持ちました。今回はオヒアの文化的な側面についてお伝えします。

神話の世界

最初に、ハワイでもっとも良く知られたオヒアレフアの物語を紹介します。

昔、オヒアという好青年がいました。火の女神ペレは彼に関心を持っていましたが、オヒアはレフアという名の女性が好きでした。そしてレフアもまたオヒアを好きだったのです。オヒアを自分に向かせることはできないと知ったペレは怒り、オヒアを一本の醜い木に変えてしまったのです。

レフアは呪いを解くようにペレに頼みましたが、ペレはそれを拒みました。レフアは何とかしてもらおうと他の神々に助けを求めたところ、そのうちの1人が、レフアをオヒアの木に咲く花に変えました。

ハレマウマウの噴煙

ハレマウマウの噴煙

ところでハワイには雨を表す言葉のなかに、「パナエヴァに降るレフアの雨」とか「ワイアレアレに降るレフアの霧雨」など、レフアという言葉が含まれているものが多くあります。これは、レフアの花に降る雨の性質(種類)を表すものですが、上の話の流れとして、レフアの花を摘むと雨が降るというのがあります。オヒアとレフアが悲劇の果てに木と花の形で結ばれました。だから花を摘むと離ればなれになります。それを悲しみ2人が流す涙が雨となると言われます。

もうひとつの物語

悲恋の物語はもうひとつあります。はるか昔、ハワイ島のプナ地区に美しい娘が住んでいました。彼女の名はレフアと言いました。顔は月のように丸く、目は星のように輝き、背筋はしっかりと伸び、髪は滝のように波打っていました。レフアは外観と同じように心根は優しく寛大で、だれもが彼女を愛しました。

若い戦士のオヒアもまたみなに可愛がられました。その脚は森の木々のように太く強く、胸は壮大な崖のように広く、顔は太陽のように微笑みを絶やしませんでした。また、その外観と同じく、勇敢でありながら優しく、オヒアを知る者はだれでも彼を愛しました。

オヒアの森

オヒアの森

夕暮れどき、オヒアはオヘ・ハノ・イフという竹製の鼻笛を奏で、その優しいメロディーをレフアの耳に届けました。彼女はその笛を追って森へ行き、オヒアと会って夜のひとときをともに過ごしました。ふたりは月明かりに照らし出された森の道を歩き、海で泳いだりサーフィンをしたり、小さな海の生き物を眺めて過ごしました。

また、早朝の光が森の木の葉を赤く染め、鳥の鳴き声を聞きながら歩くこともありました。オヒアがオヘ・ハノ・イフを奏でると、レフアは森の葉や花を集めてレイをつくりました。レフアはオヒアと自分にレイをつけると、オヒアを自分の村に連れ帰りました。

レフアのアウマクア(守護神)は、アパパネという小さな赤い鳥でした。アパパネはふたりの幸せそうな姿を見るのが好きでしたが、同時にレフアが幸せに生きることができるように導く責任を感じていました。

オヒアとアパパネ

オヒアとアパパネ

ある夜、オヒアが笛を吹いていると、レフアが待ち合わせ場所に姿を現す前に、別の若い娘が現れました。彼女は月のように丸く輝く顔をしていて、その目は炎のように輝いていました。娘女はオヒアのそばにやって来たので、彼は挨拶をした後、レフアが現れるまで笛を吹き続けました。その後にレフアが現れ、オヒアとともにその場を去るのを、見知らぬ娘は黙って見送りました。

別の夜のこと、オヒアがレフアのために笛を吹いていると、以前の娘が現れました。彼女はさらに美しく見えました。彼女はオヒアを見るなり「わたしの元に来て!」と告げました。しかしオヒアはていねいにその申し出を断り、愛するレフアを待ちました。レフアが現れ、2人が去るのを、娘は黙って見送りました。

さらに別の日のこと、またもやその娘が現れました。女性は以前にも増して美しく、その瞳はさらに赤く輝いていました。しかしオヒアはひたすらレフアを待ちました。すると見知らぬ娘は「レフアと別れてわたしのものになりなさい」と命じました。

オヒアの森と火山ガス

オヒアの森と火山ガス

「申しわけありませんが、わたしの心はレフアのものです」とオヒアは答えました。

「わたしがだれなのか、あなたは知らないの?」と娘は言いました。

「もちろん知っています。あなたは偉大な火の女神であるペレです」とオヒアは答えました。「わたしはあなたにふさわしくありません。わたしはレフアと一緒にいることで幸せなのです」。

2人が話しているところにレフアがやって来たので、オヒアは彼女を抱きしめました。それを見たペレは二人を睨みつけました。やがて地面が震えはじめました。ペレが足を踏み鳴らすと溶岩が噴き出し、二人の周りに火の輪を作りました。唯一の逃げ道は女神のもとへ繋がっていました。

「この女を捨てて、わたしのもとに来れば、おまえは生きながらえる」とオヒアに告げました。

「申し訳ありません、レフアはわたしと一心同体です。わたしが彼女を残して去れば、彼女は死に、彼女なしではわたしも死ぬでしょう」とオヒアは答えた。

「それなら一緒に死んでしまえ!」

森を焼き尽くす溶岩

森を焼き尽くす溶岩

ペレがそう言い放つと、溶岩が二人に向かって流れました。「彼女を捨て、わたしのもとへ来るのだ!」

オヒアはそれに答えず、レフアを強く抱きしめました。

溶岩が二人のすぐそばまで迫ったとき、レフアのアウマクアであるアパパネは二人の周りを飛び回り、翼が起こす風で溶岩を吹き飛ばすかのように飛び回りました。しかし溶岩は容赦なく2人のもとに近づいてきました。オヒアはレフアを光り輝く溶岩の上に持ち上げました。やがて溶岩は彼の足元に達し、彼を覆いはじめました。オヒアはレフアをさらに高く持ち上げました。

溶岩がさらに上昇したので、オヒアはレフアを限界まで高く抱き上げました。レフアはオヒアの肩の上に降りると彼の顔を撫でながら泣きました。アパパネは森の精霊たちを集めて2人を助けようとしましたが、いかなる精霊もペレを止めるほどの力は持ちあわせていませんでした。

精霊たちはオヒアの焼け焦げた足を木に変えました。彼の体は幹となり、その腕は枝となりました。オヒアはレフアを枝の高いところに掲げました。しかしほどなく、彼は自分の体が硬くなるのを感じはじめました。

オヒアレフア

オヒアレフア

溶岩の熱風にレフアの髪がなびき、そこに火の粉が燃え移って赤や金色の花が咲いたように見えました。その瞬間、レフアの姿は消え、炎のような赤い花がオヒア枝に咲きました。

この物語は伝統文化を大切にするハワイの人々に尊ばれ、レイをつくるために森に入るときは森への感謝を口にした上で花を摘む許しを得ます。そうすることで、寛大な二人は、花を差し出してくれると信じています。

オヒア・レフアについては、この他にも四大神のうちのクーやカーネの物語などがあります。また、ペレの妹であるヒイアカがホーポエという人間の女性からフラを学んだ際に、レフアの森についての話が登場します。

炎の花

このようにオフアレフアがペレと対峙する物語が今に語り継がれますが、その一方で、レフアの花は、その外観が燃える炎のように見えることから、火の女神ペレのキノ・ラウ(化身)という信仰もありました。

フラはその昔、人々が神々に祈りを捧げ、願いを聞いてもらうために行う儀式のひとつでした。フラを踊る者はレフアの花やつぼみを髪飾り(レイ・ポオ)としたり、手首や足首に巻きつけるもの(クーペエ)を用いました。また、オヒアの枝はカーラアウと呼ばれる(棒状の楽器)の素材となり、花のついた枝は、フラを学ぶハーラウ(教室)に置かれたクアフ(祭壇)に献げられました。

赤いレフア

赤いレフア

暮らしのなかのオヒア

原生林の主役であるオヒアは、日々の生活においてさまざまな場面で用いられました。武器、カパと呼ばれる不織布の素材、ポイと呼ばれるタロイモ料理に用いる叩き棒、ヘイアウ(神殿)の囲い、キイ(神像)などの彫像の素材などです。また、オヒアの葉を煎じたものは薬用として用いられました。

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。