先日、ハワイ島マウナ・ケアの北東麓に広がるハカラウの森国立野生生物保護区を訪れる機会がありました。ハカラウでは絶滅の危機に瀕している鳥類とコアなどの在来植物を保護・管理するため、1985年に設立されました。その面積は約130平方キロメートルです。
ハカラウではさまざまな課題を解消すべく、行政や学界、環境保護組織、ボランティアグループが働き、メディアやネイチャーガイドなどを通じて一般の人たちにその重要性を伝えています。
ハカラウの森の特徴と課題
ハカラウはハワイ諸島いおいて激減したコアの森と、それを取り囲むオヒアの森など、ハワイ在来の植物を管理する保護区です。森を守ることはここにある環境に依存する動物たちを守ることであり、とくに絶滅が危惧されるミツスイという野鳥の保護に力を注いでいます。高地に位置するハカラウの森には、ハワイミツスイ6種を含む29の絶滅危惧種が生息します。今回はハカラウの森が抱えるプロジェクトと課題についてお話しします。
コアとオヒアの木を植林し、維持管理する
ハワイの伝統社会においてコアはカヌーの材料として用いられました。しかし伐採が続き絶対数が減少したことに加え、世界各地から移住した人々によって新林が荒らされた結果、コアは絶滅の危機に瀕しました。コアの減少は、この木に依存する動物たちをも絶滅の危機に追いやりかねません。植林は今日までおよそ30年に渡り少しずつ行われてきましたが、今ではいくつかの森を形成するまでになりました。
オヒアは多くの外来植物が侵入した今日においても最大の分布域を誇る樹木です。ハワイミツスイのなかでもアパパネなどはオヒアに咲くレフアの花の形状に合わせてクチバシを進化させてきました。
しかし少し前からオヒアの枯死現象が目につくようになってきました。ハワイでROD(Rapid Ohia Death)と呼ばれますが、症状が目に見えるようになったときは手遅れで、またたく間に枯れてしまうことからこのように名づけられました。その原因はウイルスとされますが、詳細は不明です。RODは今日多くの土地に広がっていますが、ハカラウの森では今のところ発見されていません。外から菌を持ち込まぬよう、靴の清掃や動物を入れぬなど、日常的なケアが必要です。
在来の鳥の餌およびすみかとなるその他の植物を保護育成する
イイヴィの餌であるロベリアやなどの植林にも力を入れています。一部のイイヴィではこれまで主な蜜源であったロベリアが減少したり、他の鳥に奪われ、レフアや他の花の蜜を餌とするようになりました。その結果、わずか数世代でクチバシが短くなったという報告もあります。
ハカラウの森を外れますが、マウナ・ケアにはマメ科のマーマネの実を餌とするパリラ(ハワイミツスイの一種)がいます。この鳥もまたマーマネの自然火災などにより絶対数が減少したため、生息数が激減しました。
ハワイミツスイを中心に絶滅が危惧されている野鳥を保護する
ハワイミツスイは多くの種が絶滅危惧種に指定されています。とくにアキアポーラーアウやアケパなどは状況が深刻です。彼らの生息域を広げ、より柔軟に餌を確保できる環境作りが必要となります。アパパネは比較的多く生息するため数少ない絶滅危惧種の指定外ですが、アマキヒやイイヴィなどと同じく、各島によって微妙な違いがあります。なかでもオアフ島では多くのハワイミツスイが絶滅または永く観察されない状態が続いているので、適切で広い環境の確保がいかに重要かを物語ります。その点でもハカラウの森プロジェクトは留まることなく、保護地域を拡大させていく必要があります。
ハリエニシダを中心に侵略的外来植物を淘汰する
マウナ・ケアにはこれまでビロウドモウズイカやヒメツルソバなど、多くの侵入植物がはびこりましたが、その後に勢力範囲を広げたハリエニシダはもっとも大きな被害をもたらしています。永くハカラウの森では観察されませんでしたが、ここ数年はよく見られるようになってきました。そのため、薬液や野焼きなどさまざまな方法で駆除を試みましたが、はかばかしい進展は見られません。現在見られる駆除法にはハダニによるハリエニシダの枯死促進がありますが、ハダニの勢力拡大よりもハリエニシダの勢力拡大の方が大きく、良い効果は見られません。
その他の環境保護活動
ハカラウの森では、保護区の外周に柵を設けてほ乳類の侵入を阻んだり、人災を防ぐなどしています。また、ハワイ大学をはじめとする各種研究機関は、植林、野鳥保護、ウイルスなどの駆除など、さまざまな対処を続けています。地質学的には土壌の安定化、火山活動によって誕生した火山洞窟と内部に形成された二次生成物や洞窟性動植物などの保護も行っています。
入山規制
一般の人がハカラウの森を自由に訪れることはできません。行政、研究者、ボランティア、許可を受けたネイチャーガイドが、指定された1日あたりの上限数を超えない範囲で入山することができます。この地を訪れたい場合は文末に紹介するガイドに連絡をお取りください。
ネイチャー・ガイドの紹介
Kumiko Hasegawa Mattison さんが運営するハワイ・ネイチャー・エクスプローラーズでは日本語によるガイドツアーを主催しています。2023年時点における日本人ガイドは彼女のみです。上述したパリラの生息地への案内も行なっています。
Hawaii Nature Explorers
P.O. Box 5596 Hilo, Hawaii 96720 U.S.A.
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*その他の、英語によるネイチャーガイについては下記のサイトからお問い合わせください。
Hakalau Forest National Wildlife Refuge | Visit Us | U.S. Fish & Wildlife Service
Aloha and welcome to Hakalau Forest National Wildlife Refuge! Part of the National Wildlife Refuge systems, Hakalau is a sanctuary for many species that are na…
ハカラウの森友の会
ハカラウの森友の会(The Friends of Hakalau Forest)は、保護区のプログラムを継続拡大するための支援を求めています。これまで保護区内の2つのエリアでプロジェクトを継続しています。ハワイミツスイの仲間だけでなくハワイ雁のネネ(nēnē)の保護育成も行なっています。会員は公募されています。
ハカラウの森国立野生生物保護区
Hakalau Forest National Wildlife Refuge
C/O Big Island National Wildlife Refuge Complex 60 Nowelo Street, Suite 100 Hilo, HI 96720-2788 Phone:808- 443-2300
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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