レイはハワイ文化において欠かすことのできないもののひとつです。そのイメージは、美しい色や形、香りにあると答える人は多いでしょうが、かつては神に捧げるために、フラの踊り手や戦士が身につけるものでした。そのため、レイには香りや美しさよりも霊的な力が求められたためです。
レイには霊的な力(マナ)が宿り、魔除けや神の加護といった役割があると信じられ、決められた素材を用いました。それらは特定の貝や海草、樹木、山鳥の羽毛、人間の頭髪、石、獣骨、牙、人骨などに宿ると信じられました。なかでもアリイ・ヌイと呼ばれる大首長の髪や遺骨、巨大なサメの骨などには強いマナが宿るとされました。
伝統社会における植物のレイ
これらの素材のなかには植物も含まれました。たとえばマイレ(キョウチクトウの仲間)のレイは、戦いの休止や終了の合図として使われました。キー(センネンボク)は厄よけ、ポーフエフエ(ヒルガオの仲間)は漁師が安全と豊漁を祈願して身につけ、ピカケ(ジャスミンの仲間)やハラ(タコノキ)のレイはフラの女神ラカに捧げられました。オヒア・レフア(フトモモの仲間)は火の女神ペレの化身であり、ラマ(柿の仲間)はフラと森の女神であるラカの化身と信じられました。シダの一種であるパラパライはフラの女神ラカが身につけたとされ、オアフ島の花でもあるイリマ(アオイ科の植物)は高貴な花として首長の儀式などで用いられました。このように、特定の植物もまた、人々の信仰に重要な役割を果たしました。
今日のレイ
今日のように植物を主体としたレイが主流となったのは、ハワイが西欧と交流をはじめた19世紀以降のことです。レイはアロハの心(親愛の情)を示す手段として、あるいは誕生日や冠婚葬祭、祭日を祝うものとして用いられるようになりました。とは言え、花を首飾りや髪飾りなどにする習慣は南アジアの文化を取りこまれたという説もあります。葉のレイは中国やインドからハワイに伝わり、ジャスミンなど花を用いたレイはインドシナ半島の国々から伝わったとされます。ハワイを訪れる観光客にレイを贈る習慣は、(当初は)客船でハワイに到着した人々を歓迎しようと、レイをカヌーに積んで運び、船上の客たちにいち早く売りつけたのが始まりと言われます。
今日のレイも植物が中心ですが、花のほかにも葉や木の実が用いられるほか、象牙や鳥の羽毛、紙やビーズ、さらにはお菓子や玩具をネットに入れたものまで用いられます。素材はさまざまですが、いずれのレイも、感謝や祝福の気持ちが込められています。レイには王冠の代わりに用いられるものや、王に捧げる身の丈の何倍もの長さのレイなどもあります。
レイの種類と編み方
レイはかける部位によって呼び方が異なります。頭につけるレイはレイ・ポオ、首にかけるレイはレイ・アー・イー、手首につけるレイはクーペ・エ・リマ、足首につけるレイはクーペ・エと呼ばれます。
レイの編み方には、素材をねじりながらつなげるウィリ、針と糸を使って花を結ぶクイ、針や糸を用いずに編みこむヒリ、羽毛を使うとき、逆立つように縫うフムパパ、包むようにして縛りつけていくキープウ、数種類の葉や花を使って三つ編みにしたハクなどがあります。この他にも、帽子や服を飾り立てるプア・オーモウ(コサージュ)のようなものなど、多くの種類があります。
首にかけるレイはネックレスのように首を末端とするのはなく、首の部分が中央に来るように、前後に垂らします。妊婦の場合は環となっていないレイを使用します。相手の首にはかけず手渡しが基本です。環状のものは赤ん坊の臍の緒にまきつくという言い伝えがあるためです。
相手に渡すレイの素材にはいくつかの約束ごとがあります。たとえばプルメリアは本来、葬式などに用いるものです。観光客に贈ったり、アウアナ・フラで使用することはありますが、結婚式や受勲式などで用いません。同じようにハラ(タコノキ)を用いたレイは悪いことが起きるとされ、お祝い事(慶事)には用いられません。しかし今日ではそれほど厳格に守られているわけではありません。
各島のレイ
20世紀に入ると各島のシンボルとなるレイが誕生しました。カウアイ島は紫のモキハナ、オアフ島はイエローオレンジのイリマ、モロカイ島はシルバー・グリーンのククイ、ラナイ島はゴールドのカウナオア、カホオラヴェ島はシルバー・グレーのヒナヒナ(*1)、マウイ島はディープピンクのロケラニ(ダマスク・ローズ)、ハワイ島は赤いオヒア・レフアです。(*2)各島を象徴するレイを編むときは、これらの花や貝を用います。
*1 カホオラヴェ島のレイは2種類あり、パイナップルの仲間のスパニッシュ・モスを用いる場合と、ビーチ・ヘリオトロープが用いられる場合とがあります。
*2 ニイハウ島では植物ではなくププと呼ばれる白い貝を用います。
レイに用いられる主要な植物
イリマ
クリーム色の花は時間とともに黄色からオレンジ、赤へと変化します。イリマのレイには、「あなたを誇りに思う」という意味があります。イリマは花冠が小さく薄いので幾重にも回してかけられることが多いのですが、90cmほどのレイでおよそ700本もの花が必要となります。また、花はすぐに色を変えることに加え、短命でもあるので、早朝に摘んで暗箱に保管し、使用する直前に取り出すなど、他の花のレイに較べて多くの手間がかかります。伝統社会ではイリマのレイは首長に捧げるものでした。
プア・ケニケニ
漏斗状の花は咲きはじめは白く、次第に山吹色へと変化します。甘い香りは人気が高く、レイとしてはもちろん、ココナッツオイルの香りづけや、庭木としてもよく見られます。プア・ケニケニがハワイ(オアフ島)に導入されたのは19世紀末のことです。名称は「10セントの花」という英語をハワイ語に置き換えたものです。
マイレ
花はとても小さく、葉にも大きな特徴はありませんが、葉と茎の裏側に含まれる白い樹液にはバラのような香りがあり、古くから重要な儀式の際にレイの素材として用いられました。また、カパ(樹皮から作られた布)の香り付けとしても用いられました。フラの女神として知られるラカは意のままにマイレを動かすことができたと言われます。夜にマイレの香りがするときは、黄泉の国の霊たちが通過する徴だとも信じられました。戦の終了の際には、マイレを結びあい、互いの信頼を示したとされます。
パラパライ
香りがよく、フラの舞台装飾やレイの素材として使われます。また、ペレの末妹である女神ヒイアカ・イカポリオ・ペレがパーウー(スカート)にしたと言われます。ハワイでは標高200mから2000m近くの冷涼な土地に分布します。
ピカケ
ピカケはリリウオカラニ女王の治世に、筆頭の王位継承者であったカイウラニ王女と深い縁があります。ピカケとはハワイ語でクジャクのことですが、クジャクとジャスミンを深く愛したカイウラニ王女の死後、ジャスミンの花はピカケと呼ばれるようになりました。この花で作られたレイは結婚式において新婦がかけます。
プルメリア
プルメリアは英名をテンプルツリー(お寺の木)と言い、墓地に植えられることの多い植物であることから、結婚式などでは使いません。しかし美しく甘い香りを放つ花はとても人気が高く、街路樹としてはもちろん、フラや日常的な装飾、あるいは観光客用などとしてよく用いられます。
チュべローズ
香りが強く長持ちするため、レイとしての人気が高い花のひとつです。月下香という和名が示すように、夕暮れになると香りを放ちます。ハワイでは結婚式の際、新婦の頭を飾るレイとして用いられます。
デンファレ / バンダ欄
日持ちが良いため、ハワイはもちろん、日本でも生花のレイではよく用いられます。ハワイではデンファレとマウナロア(バンダ蘭)がお土産のレイとしてよく用いられます。また、花弁の白いものは結婚式でも用いられます。二重のレイは花婿と花嫁の母親が、一重のレイは媒酌人がつけます。
レイ・デー
ハワイでは5月1日になると、メイ・デーならぬレイ・デーが開催されます。1928年に作家のグレース・T・ウォーレンが May Day is Lei Day. と提唱したことに始まります。その後、第二次世界大戦の一時期を除き、今日まで80年の長きにわたって続いています。この催しは当初ダウンタウンで行われていましたが、その後、カピオラニ公園とヌウアヌの王室霊廟公園で開催されるようになりました。当日は創作レイのコンテストなど、さまざまななレイのセレモニーが行われます。レイ・デーは1929年よりホノルル市の公式行事となり、2001年からは州全体の公式行事となりました。
筆者プロフィール

- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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