マウナ・ロアは標高が4169mあり、標高4205mのマウナ・ケアに次ぐハワイ諸島の高峰です。マウナは「山」、ロアは「長い」という意味がありますが、その名の通り、山の長径はおよそ120kmあります。マウナ・ロアが海底で噴火をはじめたのはおよそ100万年前から70万年前。海上に顔を出したのはおよそ40~50万年前です。噴火活動は衰えを見せず、キャプテン・クックがハワイを訪れた後に限定しても、30回以上に渡り噴火してきました。1900年以降に限っても15回の噴火が観測されています。
山頂にはモク・アーヴェオヴェオと呼ばれるカルデラがあり、現在も噴煙を上げています。ちなみに、「モク」とは地域や森林を指し、「アーヴェオヴェオ」は赤い色をした魚を意味します。遠目に赤い色に見えた溶岩湖を、赤い魚に当てはめたのでしょう。カルデラの短径は約3km、長径は約5km、深さは最深で183mあります。現在の形状はおよそ600年から750年前に造られたとされます。このカルデラからは2つのリフト・ゾーン(割れ目)が伸びます。
1935年と1942年の噴火で溶岩が流れ出した際は、下界のヒロの町を襲う危険があったため、溶岩流の進路を変えるために爆弾を投下するということも行なっています。ちなみにこの試みは部分的ではありましたが、うまく行きました。1950年6月には、南西の裂け目から23日間流れ続け、小さな村を破壊しました。最新の噴火は1984年に起きました。このときに流れ出した溶岩はヒロの町まで6.5キロメートルのところまで迫りました。
マウナ・ロアを形づくる溶岩はキラウエア火山とほぼ同じで、粘性の非常に低い溶岩(玄武岩溶岩)です。粘性が低いと言うことは、固まりにくいということを意味します。そのため、起伏の少ないなめらかな山塊を持つ、盾状火山となりました。いまから4000年ほど前にほぼ現在の山容が、750年ほど前には山頂カルデラができあがったとされます。
マウナ・ロアはしばしば世界最大の山と言われます。その理由は、海底から山頂まで単一のマグマによって形成されていて、基部からの高さは1万メートルに近いからです。ちなみに山塊の容積は、富士山のおよそ400立方キロメートルに対して、その30倍ほどとなる1万立方キロメートルもあります。(※算出方法の違いにより、4万立方キロメートルという説もあります。)
観測所
マウナロアの北山麓3394mにはコロラド州のボウルダーに本部を置く海洋大気局(NOAA / National Oceanic and Atmospheric Administration)のマウナ・ロア観測所があります。この観測所はハワイ島一帯に存在する大気汚染がある下界と、清浄な対流圏の中間地帯にあります。いずれの状況についても、広大な太平洋の中心付近に位置することから、地球上の平均的な値を得ることができる理想的な場所となっています。事務本部はヒロにあり、現地では常に8名のスタッフが観測所の運営と維持管理を行っています。ここでは地球温暖化の大きな原因と言われている大気中の二酸化炭素濃度を1958年から観測してきました。世界に警鐘を鳴らすときの各国のデータは当初はこの観測所から、現在はここを含む世界各地から発信されています。マウナ・ロア観測所ではこの他にも、太陽観測所などがあります。
固有の動植物
マウナ・ロアには、マウイ島のハレアカラ山とマウナ・ケアを含む3箇所にしか生育しないシルバーソード(ギンケンソウ)や、マーマネやプキアヴェやオヘロ、ピリ・ウカ、カラモオ、オラリイなど、数多くの固有植物が生育しており、たとえばマーマネには、この実を餌とするパリラという固有の鳥が生息するほか、花蜜を餌とするさまざまな種類のハワイミツスイなどが生息します。マウナ・ケアと同じくマウナ・ロアには人が入植する前から存在した原生の自然が残されています。森林限界は標高2987mで、そこから上は溶岩の積み重なるだけの、荒涼とした景色が広がります。また、冬季には積雪が見られます。
洞窟
溶岩は温度差や圧力などの差が少しでも生じるとすぐに固まる性質があります。流れ出した溶岩の表面や表面に近いところは速度が落ち、すぐに固まりはじめ、殻を形成するのです。この「天然の炉」のような構造のせいで、炉の内部は温度がほとんど下がらず、内部の溶岩は一気に流れ下ります。やがて冷え固まると、地下に洞窟(lava tube)ができることがあります。また、傾斜が落ちたり、後続溶岩の供給が減って溶岩が滞留するようになると、内部に生じた火山ガスが膨張して地下空間が誕生することもあります。マウナ・ロアにはこのようにして出現した洞窟が数多くあります。
登山
マウナ・ロアは山頂までの登山が可能ですが、標高が4000mを越すため、高山病になりやすく速やかな下山も難しいので、高山の経験者以外にはお勧めできません。溶岩の上にははっきりとした踏み跡がなく、一定間隔をおいて積み上げられた石積み(ケルン)を目安に歩きます。霧がかかると道を見失いやすくなり、とくに下山時にルートを見失うとすぐに遭難につながります。高度順化ができている場合でも、経験者の同行を勧めます。山頂には地震観測の計測器などが設置されていますが、これらには決して手を触れぬようにしましょう。山頂直下には登頂を記すことのできるノートが缶ケースに入って置いてあります。1泊以上の登山を計画する場合は、火山国立公園内にあるビジターセンターで、登山をする全員が申請書を書き、直筆のサインをする必要があります。下山後は電話でも構いませんが、必ずビジター・センターに報告を出します。これを怠るとすぐに捜索隊が出動し、後に無届けであることが分かると罰金となるので気をつけましょう。
筆者プロフィール
- カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。
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