ハワイを代表する樹木のひとつにココヤシがあります。ココヤシを含むヤシ科の仲間は世界の熱帯と亜熱帯を中心に2500以上もの種が分布し、ハワイ諸島にはかつてそのうちの250種がありました。今日でも100種ほどのココヤシが見られます。

実をつけたココヤシ

 

常夏の島ではどこでも見かけるココヤシですが、ココヤシが太平洋諸島に広く行き渡ったのは、固い実と、何層もの殻(果皮)に覆われていること、そして水に浮いて長距離の移動に耐えるためです。しかし、実(ココナッツ)が漂着して安定した土壌に埋まり、さらに成長するためには、いくつもの偶然的な要素が重ならなければなりません。その確率はとても低いため、無人島にあるココヤシであっても、人が植えた可能性が高いと説く学者もいます。

発芽にいたるまでの過程はそれほど簡単ではありません。どれほど陸に近くても海面では発芽できず、砂地には定着しません。仮に発芽して成長しても子孫を残すことはほとんどできません。たとえばココヤシは雌雄同株ですが、花の咲く時期が異なるため、滅多に受粉することがないからです。複数のココナッツが漂着し、安定した土壌に乗り、それらが成長するためには、いくつもの偶然が重なる必要があるということです。

ココナッツの外皮とその内側にある繊維層

ハワイで最初のココヤシはポリネシア人が持ちこみました。ココヤシはハワイ名をニウと言います。ハワイにはタヒチやマルケサスから到来したとされていますが、ニウ という名称はサモアやトンガで用いられることばで、タヒチではツム・ハアリ、マルケサスではエヒと呼ばれます。どのような経緯でニウと呼ばれるようになったのかは不明です。

ポリネシア人はココヤシを持ちこんだのは、花や葉、実、幹のすべてが利用できる有用な植物だったためです。それゆえ、ココヤシはハワイの文化に深く関わりました。ココナッツの内部にある液状の胚乳は飲み物代わりになりました。ただし、実は完熟すると、胚乳は液状から固形(コプラ)に変化します。固形の胚乳を絞ったものやフレーク状にしたものは、食材として用いられたほか、船乗りが髪や体に塗って体温低下を防ぐことに用いられました。

 

ココナッツの内部。白い部分は胚乳

外側の殻のすぐ内側にある繊維(中果皮)は焚きつけやロープ、タワシとなり、開花前の花軸を切ったときに出る樹液は、そのまま飲めば甘いジュースに、発酵させればヤシ酒となりました、幹は建材やカヌー、楽器、食器などに、葉は屋根を葺いたり、籠などの編み細工に用いられました。葉の茎のようにみえる部分(中肋)は箒に用いたり、松明の支柱に用いられました。

ポリネシア人によってハワイに持ちこまれたココヤシには大きく2つに分かれます。ひとつは「ニウ・ヒヴァ」と呼ばれるもので、外果皮が暗緑色しており、内果皮は黒色です。これは儀式や薬用、食用に用いられました。もうひとつは「ニウ・レロ」と呼ばれるもので、外果皮は赤茶色で、内果皮は黄色です。こちらは建材や燃料、食用など、儀式と薬用以外の一般的な目的に用いられました。今日でも胚乳を乾燥させたコプラから採れる油は、化粧品や石鹸の原材料として用いられます。

 

1本のココヤシからは1年に40~80個の果実を収獲できるので、ほぼ1週間に1個の割合で実が落ちる計算になります。水分の多い若い果実を採集するには、木に登るか、道具を使って落とすしかありません。採集の際は、幹に丈夫なヒモを回して両端を左右 の足首に結び、足の裏で幹を挟むようにして登ります。また、果実は引っ張らず、回転させてもぎ取ります。

花はまとまって咲き、その集合体(花序)は 1.2~1.8mほどです。最初に雄花が、次に雌花が咲きます。実(ココナッツ)は楕円形で、内果皮の基部付近に3つの孔があります。この孔がサルに似ていることから、ポルトガル語でココス(サル)の名がつきました。ハワイでは街路樹や、海岸の植栽としてよく用いられます。ココヤシは海岸に植林されることが多く、おおよそ8m間隔で植えられます。成長後、毎年100個前後の実(長径25~30cm)を、50年に渡ってつけます。

ココナッツの内皮にある黒い斑点

ハワイ名:Niu
学名:Cocos nucifera ヤシ科ココヤシ属
英名:Coconut Palm
和名:ココヤシ
原産地:メラネシア / 伝統植物(カヌープランツ)
特徴:樹高:12~30m。花は集合花で、1.2~1.8m。最初に雄花が、次に雌花が咲きます。成長すると20~30mになります。羽状の葉(1.8~4.5m)は黄色みを帯びた緑色で光沢があり、成長すると4mほどになります。この葉は年に10枚ほどつき、古いものは落葉します。このとき幹に葉痕と呼ばれる環状のスジが入ります。葉は1年に4枚落葉するので、葉痕を数えるとヤシの木のおおよその樹齢がわかります。

実(ココナッツ)は楕円形で、内果皮の基部付近に3つの孔ができます。この孔がサルの顔に似ていることから、ポルトガル語でココス(サル)の名がつきました。ハワイでは街路樹や、海岸の植栽としてよく用いられます。ココヤシは海岸に植林されることが多いですが、根の張り方と養分摂取の関係で、おおよそ7~8mの間隔を空けて植えられます。

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。