ハウはハワイの伝統社会においてロープや薬など、多くの用途に用いられました。そのため神聖なものとされ、アリイ(首長)の許可なく利用することはできませんでした。

樹皮でロープを編む

樹皮でロープを編む

 

ハワイの伝統文化に深い関わりを持った植物は多くあります。なかでもハウはハワイ諸島に住み着いた先住民にとってなくてはならない植物でした。今日でも水辺に多く見られるハウの特徴と歴史について見ていきます。

 

ハウは素早く色を変化させます。花は、朝の咲きはじめは明るいレモンイエローをしていますが、次第に濃い黄色となり、やがて夕暮れ時には赤褐色となって落ちます。

早朝の花

早朝の花

日中の花

日中の花

夕刻の花

夕刻の花

ハウの木はとても比重が軽いため、樹皮から取り出した繊維で編んだ糸はさまざまな用途に用いられました。幹や樹皮の内側にある繊維層ではロープが作られ、イブヘケ(ヒョウタン製の楽器)の手綱に使用しました。ハウは淡水や塩水に強いため、漁業の際の浮子(うき)や、漁網やカバ(不織布)などに用いられました。深く地にもぐり込んだ主根からは褐色の染色剤が作られました。また、材を使用してカヌーのマストとしたり、オロメアやアラヘエなどの堅い木とこすり合わせて火熾しの道具としました。

地を這うハウの根

地を這うハウの根(オアフ島マノア滝付近)

薬用

ハウは薬用としてもあらゆる部位が用いられました。とくに蕾や花のなかの子房、茎や幹などから採れる粘り気のある樹液は、さまざまな薬用に用いられました。生後3 日から4 週間の乳児には蕾から集められた樹液が便秘薬として用いられました。樹液を便秘薬として用いる場合は、夜寝る前に服用すると決められていました。根は煎じて解熱剤となりました。胸焼けやむかつきには若い枝部分の樹皮から採れる樹液が用いられました。また、ハウの花の樹液に他の植物の樹液と、ときに水を混ぜ合わせたものからさまざまな薬が作り出されました。

陣痛の女性には樹液を水で薄めたものを飲ませたり、腹部に塗って痛みを和らげたりしました。喉の痛みには若葉をすり潰して出る樹液(葉汁)を水で薄めて飲みました。この葉汁は喉が渇いたときの水の代用ともなりました。果汁は乳児の離乳食として用いられたほか、歯痛や胸の痛みの緩和などに用いられました。樹液は陣痛や胃痛を和らげる働きもありました。樹皮の内裏から採取する樹液は胸詰まりを和らげました。このようにハウは薬用として幅広く用いられました。

ハート型というより円形に近い葉

ハート型というより円形に近い葉

 

信仰

海を守るハウは信仰の面でも大きな役割を担いました。ハウの木は塩害に強く、海岸や川辺に群落を作るため、大波を防いだり、土壌の流出を防ぐなどの目的で植林されることもありました。

ハワイの暮らしには多くのカプ(規則)がありました。たとえば、魚の産卵期には禁漁となるのですが、この時期には海岸にハウの木を立てて目印としました。これを破ると死を持って償わなければならないという厳しいものでした。神話のなかには、女神ヒナ(あるいはヒナの姉妹)がハウに姿を変えたという伝説があります。

樹皮を剥ぐ(カウアイ島ワイパーの教育林で管理者が行っています)

樹皮を剥ぐ

 

植物知識

ハワイ名:Hau
学名:Hibiscus tiliaceus  アオイ科フヨウ属
英名:Cottonwood, Beach Hibiscus, Sea Hibiscus, mohoe
和名:オオハマボウ、ユウナ、ヤマアサ
原産地:マレーシア〜太平洋諸島 / 伝統植物または固有植物

樹高が10メートル以上に達するハウの木(マウイ島カハヌ・ガーデン)

樹高が10メートル以上に達するハウの木

 

特徴:
ハワイ諸島ではカホオラヴェ島とニイハウ島を除く主要6島の、海沿いを中心に海抜300m程度までに分布します。低木〜⾼木で受講は2〜20mほどです。ハウは伝統植物(カヌープランツ)として持ち込まれましたが、ニウ(ココヤシ)やマイア(バナナ)などと同じく、在来の植物であった可能性も残されます。

花は丸みを帯び、サイズは7〜9cm。朝に開花しレモンイエローをしていますが、次第に黄色味を帯び、さらに夕暮れとなると濃いオレンジ色となって落ちます。ハウは一日花ですが、これはアオイ科に共通する特徴です。また、ハイビスカスやフヨウなどと同じく、花柱が太く伸びる点も共通します。

葉は常緑で、サイズは10〜15cm で丸みを帯び、先端が少し尖るハート型です。表側は無⽑でわずかな光沢があり、裏面は繊⽑が密集していて灰⽩色に⾒えます。

枝や根はよく分岐し、林床は人が通れないほどに密生します。根を煎じたものは煎じて解熱剤としました。樹皮は繊維質に富むため、加工してロープや漁網と利用されました。

ハウはカイマナビーチホテルのビーチに面したオープンテラスを覆うハウツリー・ラナイで知られています。ちなみにこのホテルは一昨年までかつてニューオータニが運営していましたが、現在は別の会社に移管されました。

また、オオハマボウは秋篠宮家の佳子内親王の「お印」としても知られます。中国では芳⾹のある葉を、⾷べ物を蒸すときの敷きものとして用いました。ただしこの葉は水に浸けておくと1日で腐臭を放地ます。

ハウは塩害に強く、海辺に根を下ろすこともできます。⼩笠原諸島には、ハウから分化した固有種のモンテンボクが⾃生します。カウアイ島のワイルア川やハエナ地区、ハワイ島のコハラ半島には大きな群生があります。

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筆者プロフィール

近藤純夫
カワラ版のネイチャー・ガイド。本業はエッセイスト兼翻訳家だが、いまはハワイの魅力を支えている自然をもっと知ってもらうことに力を注ぐ。趣味は穴潜りと読書。ハワイ滞在中も時間をやりくりして書店通いをしている。